孤独を愛する女性、自分を偽る女性

心に大きな傷を抱えた女性を描く『Land』で監督と主演を兼任したロビン・ライト。photo by Sundance.org

また、この映画祭では、女優のロビン・ライトとレベッカ・ホールが監督デビューを果たしました。ライトの映画は自らが主演も兼任する『Land』。心に大きな傷を抱えた女性が、誰とも会わなくていいように山の中でひとり暮らしを始めるというストーリーで、他人の思いやりというものの大切さを強く感じさせる傑作です。こちらは映画祭前に、フォーカス・フィーチャーズが権利を買っており、アメリカでは今月公開されました。

今年のサンダンス映画祭でNetflixが1500万ドルで世界配信権を競り落とした『Passing』を監督した女優のレベッカ・ホール。 photo by Sundance.org

ホールの映画は、人種差別に迫る『Passing』。白人で通せるルックスであるため、人種差別者の夫にすら嘘をついて白人として生きている黒人女性と、そのことに抵抗を覚える元同級生が主人公。こちらはNetflixが1500万ドルで世界配信権を競り落としました。「白人であるホールが黒人の物語を語るのはどうなのか」と疑問を感じるかもしれませんが、実は、ホールの祖父は、まさに白人で通せる黒人で、ずっと白人として生きた人だったのです。そのことで自分のアイデンティティにも迷いを持っていた頃に、原作小説に出会ったのだと、ホールは語っています。

人種差別に迫る『Passing』。photo by Sundance.org


出産にまつわる常識に切り込む


一方で、ニコール・ベックウィズの『Together Together』は、出産リミットが関係あるのは女性だけという常識に斬り込むもの。エド・ヘルムズ演じる独身男性の主人公が、自分の子供を生んでもらうために20代の代理母を雇い、友情を築いていくというストーリー。主人公の男性がストレートであることをはっきりさせたのは、ふたつの意味があります。まず、アメリカではすでにゲイカップルに子供がいるのはかなり普通に受け入れられていますが、ストレートの男性がひとりで子供を作るのは稀であること。また、20代の若い代理母とプラトニックな関係を作るのも、ゲイだったら当たり前。そういったこともあって、今作は新鮮に映るのです。

 


アカデミー賞監督部門で大注目の女性監督


女性の活躍が目立つのは、今年のアワードシーズンも同様です。アカデミー賞監督部門で最有力視されているのは、『ノマドランド』のクロエ・ジャオ。予想通り彼女が受賞すれば、女性として史上ふたりめであるだけでなく、アジア系女性としては史上初となります。ですが、彼女のライバルになりそうな女性たちも、みんな優秀。この部門に入ってきそうな女性監督には、『First Cow』のケリー・ラインカート、『Never Rarely Sometimes Always』のイライザ・ヒットマン、『Promising Young Woman』のエメラルド・フェンネル、『あの夜、マイアミで』のレジナ・キングなどがいます。

これらの作品はどれもすばらしいので、この中の誰が受賞しても、個人的にはまったく文句はありません。彼女ら全員を、心から応援します。受賞結果にかかわらず、彼女たちは、今、ほかの女性たちのために、大きな扉を開けてくれているのですから。
 


猿渡由紀
L.A.在住映画ジャーナリスト
神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒業。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場リポート記事、ハリウッド事情のコラムを、『シュプール』『ハーパース バザー日本版』『週刊文春』『週刊SPA!』『Movie ぴあ』『キネマ旬報』のほか、雑誌や新聞、Yahoo、ぴあ、シネマトゥデイ、東洋経済オンラインなどのウェブサイトに寄稿。米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。

構成/榎本明日香


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