ーー稽古場で「それはダメだ」と言われるところまでやってみるものって何でしょうか。
野田:そうはいっても、いまはもう、役者にも社会性が求められるようになって、不祥事を起こすとたちまち社会的な責任を問われる時代だから、表現もどんどん枠にハマっているような気がするね。
「本来、役者にはそんなもの(社会性)はないんだよ」。……これは、私が言ったことじゃないですよ、(天を見上げて)蜷川幸雄が言っていたことです(笑)。
高橋:「だから俳優なんだよ」と。これも僕ではなく蜷川さんが言っていました(笑)。野田さんのワークショップは自由に動くことができて楽しかったです。
ーーさて、今日の対談、高橋さんから野田さんには台本ができるまで聞くことがないとのことですが、野田さんから高橋さんに聞きたいことはありますか?
野田:そんな高校生みたいなことを(笑)。……(ひよこ口にして)好きな色は、なんですか?(笑)
高橋:青です。
野田:青かあ。同じだ、僕は水色かな。……あと、音楽はなにを聞くの? 好きな曲は?
高橋:好きな曲……。最近、高田渡ばかり聴いています。
野田:え、高田渡を知っている世代じゃないでしょう?
高橋:すごく好きなんです。定期的に、高田渡が聞きたい波がやってくるんです。最近はレコードを聞いています。
野田:『自衛隊に入ろう』は高田渡じゃなかった?
高橋:そうです。
野田:僕はときどき、それを口ずさむことがあるよ。これを道で歌っていたら危ない人だと思われちゃうよね。
歌詞はかなり皮肉めいたものだけれど、聞き心地のいいメロディにカムフラージュされているんだよね。
気がつくと歌っている曲といえば、なぜか気分のいいときにエディット・ピアフの『ラ・ヴィ・アン・ローズ(ばら色の人生)』を歌っているらしい(口笛をすこし吹く)。
自分では気づかなったけれど、イギリスの友達から「ヒデキ、気分がいいときはいつも『ラ・ヴィ・アン・ローズ』を歌っているよ」と指摘されたことがあるんだよ。
ーーさて、改めて『フェイクスピア』というタイトルを、高橋さんは聞いて、どんなイメージを抱きましたか?
高橋:まず、シェイクスピアが浮かびました。去年(2020年)、久しぶりにやった舞台が『天保十二年のシェイクスピア』という、井上ひさしさんが天保時代を舞台にした時代劇に、シェイクスピア全作品を盛り込むという趣向をこらした作品で、やりながらシェイクスピアを復習している気分だったので、ご縁があるな、と。
『天保〜』で強く感じたことは、シェイクスピアのある種のクラシックさというか普遍性でした。親子関係でも恋人でも、すれ違いの悲劇など、いちばんストーリーテリングしやすいものがベースに入っていて、誰が見てもわかりやすいのだと思います。
野田:シェイクスピアのそういうところはほんとうに優れていると思う。親子や恋人の物語あり、晩年になると、権力のものありで。
ほぼほぼ、人間のドラマを網羅していますね。尊敬申し上げております(笑)。
高橋:とはいえ、どれだけ僕がシェイクスピアを復習できているか、というとわからないですが……。
野田:いやまあ、今回は「フェイク」だから大丈夫だよ(笑)。
高橋:「フェイク」だから、大丈夫ですね(笑)。
<公演情報>
NODA・MAP第24回公演『フェイクスピア』
今やSNSから現実世界にまで蔓延る“フェイク”な「コトバ」。50年近く劇作という仕事に携わり、「コトバ」を生業にしてきた野田が、世界中を“フェイク”が
気になるのがタイトル頭の“フェイク”。
タイトルは『フェイクスピア』。シェイクスピアではなく、“フェイク”スピアである。野田らしいウィットに富んだ言葉遊びを思わせるタイトルだが、その意味は、現時点では謎に包まれている。
野田秀樹率いるNODA・MAPが、遂に待望の新作公演を上演。
そしてもうひとつ気になるのが新作の設定。何と
霊を自らの身体に招き入れ、憑依させ、死者に代わってその意思を語る秘術“口寄せ”の使い手であるイタコが、一体、この『フェイクスピア』でどう機能していくというのか?
そしてNODA・MAPが仕掛ける“フェイク”は、観客をどんな物語へと誘うのか?
作・演出:野田秀樹
出演:高橋一生
川平慈英 大倉孝二 前田敦子 村岡希美
白石加代子 野田秀樹 橋爪功
●東京公演 4月チケット発売
公演日時:2021年5月24日(月)〜7月11日(日)
場所:東京芸術劇場プレイハウス
●大阪公演 6月チケット発売
公演日時:2021年7月15日(木)〜7月25日(日)
場所:新歌舞伎座
取材・文/木俣冬
撮影/Junko Yokoyama ( Lorimer management+ )
スタイリング/北澤“momo”寿志 ( band )
ヘア&メイク/赤松絵利 ( ESPER )
構成/片岡千晶(編集部)
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