現代風刺、大どんでん返し、オチ……『世にも〜』らしさの難しさ
朝井:子どもの頃からずっと観ていました。何週間後かに『世にも~』が放送になると知ったときからずっと楽しみというか、どんな珠玉の5作品を味わえるのだろうとワクワクしていました。『世にも~』は、ほかの番組と比べて観る前の期待値がすごく高いんです。年に2回決まって放送されるという形態の番組は、例えば連続ドラマのスピンオフや特番では存在しますが、独立したフィクションの番組だととても少ないですよね。以前、脚本家の方から、若手はみんな『世にも~』に作品を出していて、ちょっとした新人の登竜門のようになっているという話を聞いたことがあります。だからこそ継続することとクオリティを保つことが両立されているんだなと。5作品の中でも、正統派の恐怖系、社会に新たなルールができるようなSF系、かと思えば怖いオチが来ると見せかけて感動的な物語など、奇妙さに種類があるところも好きです。それを一言で的確に表した『世にも奇妙な物語』というフレーズ自体に発明的なものを感じます。
珠玉の5話は通常それぞれ別の作家の作品から選ばれますが、朝井さんはそれらをご自身ひとりで構成。普段書かれている作品作りとは違った苦労があったそうです。
朝井:まず、ミステリー作家でもないのに“オチ”を売りにした独立短編集を編むというのがかなり無謀でした。“オチ”を売りにした独立短編って、変な言い方かもしれませんが、“よい雰囲気のシーン”とか、あんまり要らないんですよ。とにかくオチで最大の音を響かせる、そのためだけに粛々と工事を進めていく、みたいな感覚でした。体脂肪を落とすような作業というか。『世にも~』に出てくる物語って、無駄をなくして必要なものだけで美しく魅せるみたいな構成のものが多くて、改めて、本当に実力が問われるつくりになっているんだなと実感しました。ただ、執筆しているときに当時の『世にも~』のプロデューサーの方と話す機会があり、現代的な要素が入っていると採用しやすいという話をうかがえたので、どんでん返しのほかに現代風刺を条件に加えました。そのおかげで、物語を考えやすくはなりました。
そう伺うだけでも苦しさが迫ってくるよう。朝井さんはさらに続けてくださいました。
朝井:タイトルに『世にも奇妙~』とあるからには読者は最後に騙されることを予測しながら読んでいるわけで、ということはあからさまに何かを仕掛けると簡単にバレてしまうんですよね。読者の方の感想の中にも「第〇話は先の展開が読めてしまって~」というものが多くて、オチがあると宣言したうえで騙すというのは本当に難しいんだなと感じました。もともとは「好きだから書いちゃお!」くらいの気持ちで書き始めたのに、あとから難易度の高さに気付いてびっくり、というか。一冊目はなんとか乗り切れたけれど、と、今かなり不安になっています。
一冊目、ということは次回作も期待できる……?
朝井:予想を超えて、多くの方々に文庫本を読んでいただいたんです。シリーズ化できたらいいなと思っていましたし、実際にやりましょうというお話もいただいています。すごく嬉しいことなんですけど、本家の『世にも奇妙な物語』にならって性別も年齢もバラバラの主人公をすえつつ、タイプの違う物語を量産するのはなかなか難しいだろうなとかなり怯えています!
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