本だけでは何も変わらなかった  

 

編集部 アンガーマネージメントを最初に取り入れたきっかけを教えてください。

N  長女が小学生中学年になったころ、年の離れた弟を出産したんです。長年、一人っ子としてワガママいっぱいに育ってきた反動の現れと、赤ちゃんという存在への驚きもあってか、長女はなかなかママ離れができず……。私は幼児の世話と長女の反発とに苛まれて、あんなにもかわいがっていた娘へ怒りをあらわにすることがだんだんと増えていきました。自分でもこのままではいけない、と、アンガーマネジメントの本を買って読んでみたのですが、「まあ、そういうふうにできたらいいなあ……」という感じで、終わっていました。

編集部 書籍を読んで内容は理解されたものの、現実は変わらなかったんですね。

 


もともと「怖い」と言われがち  


N   私は、もともと性格がハッキリしていて、身長も高く骨格もしっかりしています。声もとてもよく通るので、初対面の方からは特に、「怖い!」と言われることが多かったんです。

編集部 確かによく通るお声だし、理路整然と話されている印象が強いです。

N 小学生時代から、ずるいことやゆがんだこと、間違ったことが許せなくて……。今から考えれば、正論や正義感で相手を威圧したことも多かったなと思うんです。学生時代の私は生真面目な優等生、生徒会長も小、中、高とやりました。
 

怒り=主張=自分の正当化


編集部 絵に描いたような優等生ですね。ルールや規範重視の学生時代は、「アンガー=怒り」を咎められることはなさそうですが、社会人になってからはどうでしたか?

N 実は、新入社員時代から周りの同期よりかなりはっきりと主張し、時にはそのせいでトラブルも起こしてきました。予想とは違う結果になった時のスタッフへの嫌味、同僚や後輩のミスや遅延などへの叱責、業務上起こりえる理不尽な覆りへの抑えられない憤り……と、じわじわと怒りが蓄積、拡大して、さらに年次を重ねるごとにそれは抑えられなくなり、抑えなくてもよくなってきてしまったようにも思いました。

でも、ある時、「どんなに相手が理不尽なことをした場合でも、こちらが怒りすぎると、自分が加害者になるかもしれない」という出来事に出くわしたんです。
 

サイコパス後輩の登場!
 

N  「動画内のテキストを変える」という至って単純な仕事を、ある後輩に依頼したのが最初のきっかけでした。その動画をもともと作ったのが彼女だったからで、2週間後に締め切りを設定。作業量そのものは、15分程度の仕事でしたが、急ぐ要件でもない依頼事項なので幅を持たせました。

しかし、その後輩は2週間経っても修正してこず、それどころか、締め切り数日前から進捗を確認するメールや電話には一切返信がなく……。編集部にも現れず、締め切り当日は、私からの電話を50件無視したんです。

編集部 電話50件!? いや、そもそも悪いのは後輩だと思いますが……。
 

加害者は誰に?
 

N  翌日、私の前に現れた後輩はなんと泣いていました。泣きながら「具合が悪かった」と言っていました。私はつい、「言い訳をする暇があるなら、今すぐ直してください」「どうして電話ひとつでないの?」「そもそも2週間もあったのになぜやっていないの」と叱責しました。

編集部 え、泣いてしまったんですか……。社会人としてはちょっとありえないと思ってしまいますね。

N  その時私はふと、そら恐ろしい気持ちになったんです。こうやって、人前で泣いて現れた小柄な後輩を叱りつける私は、誰がどう見ても私の方が悪人に見える、という事実に。
当時は、後輩自身が他部署や他の企画でも同様の行いをしてクレームの嵐になっていたため、問題にはなりませんでした。でも、事情を知らない人から見れば、「どちらが悪そうか」という印象で決まってしまう可能性も大きいと思ったんです。

編集部 確かにそうですね。

N 怒ってもどうしようもない人物に当たってしまったら、もはや回避するしかない、それが私が知った最初のアンガーマネジメントの必要性でした。この先、「怒りをコントロールしないと、自身が加害者として追い込まれることにもなりかねない」と。

構成・文/藤本容子

次回は6月14日(月)公開予定です!

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