夢中になれるドラマを絶賛探し中のあなたへ、好みのドラマ別に次にハマれる作品をご紹介している“はせともドラママッチング”。テレビから配信系までカバーするコラムニスト長谷川朋子が独断と偏見でオススメします!
今回は、人生負け組の“シジュー(40歳)”娘が主役のドラマ『その女、ジルバ』に勇気をもらった人必見のNetflix映画をご紹介。2020年のサンダンス映画祭で監督賞を受賞した『40歳の解釈: ラダの場合(英語タイトル;The Forty-Year-Old Version)』です。こちらはハーレムを舞台に、開いた扉はラッパーの道。世界観に大きな違いはありますが、「Yo!これが40歳の現実」と歌い、一念発起する姿は言葉と文化の壁を越えて、魂の叫びが聞こえてきます。
「なぜ肌がカサつく?」シジューの現実をラップにするラダ
記憶に新しい1月期の連続ドラマの中でキラリと光っていた秀逸作と言えば、『その女、ジルバ』(東海テレビ制作)でしょう。毎話、池脇千鶴演じる主人公・新(あらた)が一歩前に踏み出して手に入れる小さな幸せに“シジュー女”の底力を感じたものです。なかでも衝撃的だったのが第1話。どん底にいる独り身女性の生々しさが描かれていました。まるでこの時の新と同じ心境にいる女性がNetflix映画『40歳の解釈: ラダの場合』に登場します。ニューヨークのハーレムに住むシジュ―の劇作家ラダです。
運に見放されたラダのどん底っぷりも、なかなか痛々しい描写です。かつての栄光は何処へやら、生活のために働くだけの毎日。何もかも上手くいかず、打ちひしがれた時、ラダが導かれていったのはラッパーとして再スタートを探る道でした。ラダの場合も思わず「え?ラップミュージックって若者カルチャーじゃないの?シジュー女が乗り込んで大丈夫?」とツッコミを入れたくなります。でも、そんな不安はラダが内なる声をラップに乗せた瞬間に吹き飛びます。「Yo!」から始まるそのラップはこんな具合。
なぜ肌がカサつく?
なぜ退屈?
なぜバスで若い男に席を譲られた?
激しく踊りたいのに膝が痛い。
これが40歳の現実。
自虐的でありながら、老いを受け入れ、それをラップにすることへの勇気と、自分を取り戻していくラダの姿が時に笑わせてもくれながら、心揺さぶられるのです。
デビュー作で「2020年に注目すべき10人の監督」の1人に選ばれる
このラダを演じたのは、本作の脚本家で、プロデューサーでもあり、監督のラダ・ブランク自身です。監督としてはこれがデビュー作。彼女の名前は2020年の賞レースで話題にならない日はないほど注目を浴び、世界最大のインディペンデント映画祭で知られるアメリカの「2020年サンダンス映画祭」米国ドラマ部門では監督賞を受賞する快挙を果たしています。これをきっかけにNetflixで世界配信されています。
残念ながら、期待されていたアカデミー賞ではノミネートが見送られましたが、アメリカ最大手のエンターテイメント誌Varietyで「2020年に注目すべき10人の監督」の1人に選ばれ、批評家から「面白く、示唆に富み、独創的な作品」などと評価されています。
ブランクはこの作品で描かれるラダを「65%は自分の話」とプロダクションノートで語っています。自身も劇作家に教師、ラッパー、コメディアン、テレビ番組の脚本家と多様で茨の道のキャリアを歩み、最終的に辿り着いたのが現在の映画監督です。これまでふつふつと不安や疑問に感じていた女性差別やコンプレックス、母親の死などを、ユーモアを持って劇中にぶつけています。
20代のビートメイカーD(オズウィン・ベンジャミン)との恋バナや、韓国人のゲイの親友アーチー(ピーター・キム)との友情物語を盛り込んだのは、旬なエンタメ作品として意識したところでしょうか。ニューヨーク映画らしいキャラクター設定でもあります。実はラダ自身が生粋のニューヨーカーとのこと。ロケ地選びに拘り、そのセンスも抜群。ウッディ・アレンやスパイク・リー監督作に例えられています。また楽屋裏や、女性だけのバトルラップ大会のシーンはドキュメンタリーのような映し方が印象的です。
全編35ミリのモノクロと、万人受けする類のものではありませんが、ニューヨーカーのシジュー女性の現実の映し出し方に身近ささえ感じさせる強さがある作品です。
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