「自給自足」を始めてしまう、閉経後の乳がん


閉経した方の場合、女性ホルモンが関わってくるのは、乳がんができてからの話です。閉経している方の乳がんリスクが高いと言われる一番の理由は“遺伝子のほころび”。遺伝子は、長く生きるほど異常を起こしやすくなるからです。

でも、ちょっと不思議ではありませんか? おそらく多くの方は「閉経後で女性ホルモンは減っているのだから、乳がんは育ちにくいのでは?」と疑問に思われるでしょう。確かに、女性ホルモンが減っている点ではその通りなのですが、実は驚くべきことが身体の中で起こるのです。

女性ホルモンが「がんを育てる」?乳がんと更年期の意外な関係性とは_img0
 

女性の身体は初潮を迎えた後、女性ホルモンのエストロゲンを卵巣で作り続けるわけですが、閉経期は卵巣の機能が低下するとともに、女性ホルモンの分泌も減っていきます。いよいよ卵巣の働きが止まって女性ホルモンが作られなくなった状態が閉経です。しかし乳がん細胞は、なんと卵巣に頼ることなく、女性ホルモンを「勝手に作り始めてしまう」のです。例えるなら、がんが自給自足のために家庭菜園を始めてしまう、といったイメージでしょうか。そのため閉経後の乳がん患者さんには、女性ホルモンを自動生成する仕組みを防ぐ「アロマターゼ阻害薬」といった薬で治療を行うなどします。


乳がん治療は婦人科との連携が大切!


当院の患者さんの中にも、更年期障害でホルモン補充療法を行っている方がいます。更年期障害の治療を行っている婦人科の先生から、「ちゃんと乳がん検診してくださいね」と言われているので、1年に1回必ず検診にいらっしゃいます。また、乳がんの治療で更年期障害になることもあるので、私のような乳腺外科医や乳がんの治療する医師にとって、婦人科で更年期障害を専門とする先生の存在はとても大切です。

ちなみに、ホルモン補充療法中の方が乳がんになった場合は、乳がんの治療が優先されます。そのため、更年期障害の症状には、漢方やサプリメント、運動などで対処することになると思います。更年期障害の治療中で気になる方は、婦人科の先生に相談してみるといいでしょう。

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緒方晴樹 Haruki Ogata

目白乳腺クリニック院長。日本乳癌学会乳腺専門医・指導医。20年以上にわたり乳腺外科を専門とする。東京逓信病院では乳腺センター立ち上げに尽力、センター長として多くの乳がん患者の治療にあたった。2019年2月、女性が気軽に受診できる「乳がん検診・治療・フォローアップ専門クリニック」として、目白乳腺クリニックを開院。


取材・文/金澤英恵
イラスト/徳丸ゆう
構成/山崎恵

 

【全10回】
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第4回「乳がんの再発・転移の確率は?乳腺専門医への取材でわかった、治療の最新事情」>>
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