静かに首をかしげる先生。視線の先には、マンモグラフィで撮影したおっぱいの画像……。相当ハラハラするシチュエーションですが、実はマンモグラフィで乳がんを見つけづらくなるおっぱいの状態があるそう。それが「高濃度乳腺」だと言われています。そこで今回は、乳腺専門医の緒方晴樹先生に、高濃度乳腺とは一体どんなもの? がんになりやすくなるの? といった疑問から、なんと男性にも存在する(!)おっぱいの病気についてもうかがいました。

 


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女性ホルモンが「がんを育てる」⁈乳がんと更年期の意外な関係性とは>>


日本人に多い「高濃度乳腺」ってなに?
→病気や異常ではなく、あくまで「状態」を表す言葉です。


高濃度乳腺とは、乳房の中にある“乳腺の割合”が高い状態のこと。別名「デンスブレスト」とも呼びます。名前だけ見ると少しドキッとするかもしれませんが、病気や異常というわけではなく、あくまでも“状態”を表しているものです。

日本人を含むアジア人は痩せていて乳房の脂肪が少ないため、乳房の脂肪が多い欧米人に比べて、高濃度乳腺の傾向が強いと言われています。乳がんの発生と高濃度乳腺の関連についてははっきりと解明されていませんが、高濃度乳腺では、乳がんの発症率がやや高くなる可能性があると言われています。

さらに高濃度乳腺は、マンモグラフィで乳がんを発見しづらいという特徴もあります。乳房は脂肪組織と乳腺組織で構成されており、マンモグラフィでは脂肪は黒く、乳腺は白く写ります。高濃度乳腺は乳房全体が真っ白に映ってしまうため、同じく白く写る乳がんなどのしこりがあっても、周囲の乳腺に隠れて見つけづらくなるというわけです。ですから高濃度乳腺の場合は、エコー(超音波検査)や他の検査も行って異常がないかを確認することが大切です。

実際、40代以上の女性で高濃度乳腺の人は、そうでない人に比べて乳がんのリスクが上がるとされています。乳がんが出来やすいためか、見つけづらくなるためかという問題がありますが、いずれにしろ高濃度乳腺はマンモグラフィによる検査の精度が低くなります。ですので、特に40代以上で高濃度乳腺と言われたことがある方は、必ずマンモグラフィとエコーの両方で検診を行うようにしてください。


男性でも注意すべき「おっぱいの病気」はある?
→ある。ごくまれながら、乳がんを発症するケースも。


乳腺は、普通はほとんど触れませんが、わずかに男性にもあり、乳腺組織が肥大化して女性のように胸が膨らんでくる「女性化乳房症」といった病気もあります。女性化乳房症は、ホルモンバランスの崩れ、薬の影響、肝臓疾患などが関係しているといわれています。基本的には経過観察を行っている間に症状は自然におさまりますが、胸の違和感やしこりを感じたら、恥ずかしがらずに外科や乳腺外科を受診するようにしてください。ごくまれではありますが、男性も「乳がん」になることがあるからです。

緒方晴樹 Haruki Ogata

目白乳腺クリニック院長。日本乳癌学会乳腺専門医・指導医。20年以上にわたり乳腺外科を専門とする。東京逓信病院では乳腺センター立ち上げに尽力、センター長として多くの乳がん患者の治療にあたった。2019年2月、女性が気軽に受診できる「乳がん検診・治療・フォローアップ専門クリニック」として、目白乳腺クリニックを開院。


取材・文/金澤英恵
イラスト/徳丸ゆう
構成/山崎恵

 

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