私の祖母は、記憶に残っている限り、いつも歩行器を使っていたように思います。室内では伝い歩きをしていましたが、外ではいつも歩行器を押している姿が印象的でした。

私には、あのショッピングカート兼用の歩行器が祖母の歩行を助け、転倒から身を守り、重い買い物袋を運ぶのにも役立つとても賢いアイテムのように映っていましたが、実際のところはどうだったのでしょうか。

 


関連記事
1000万人の日本人が悩む、膝の痛みの原因とは?>>


医師が杖や歩行器を勧めるワケ


医師として、加齢や慢性疾患で神経や筋肉の機能が衰え、歩行やバランスに障害のある高齢の患者さんを見ると、歩行器や杖を勧めたいと思うことがよくあります。

 

実際に、患者さんの中には、歩行器や杖によって明らかに移動能力が向上する方もいます。しかし、実はそのような補助具が転倒のリスクを低減するという科学的な根拠はありません。

 

そもそも、転倒を予防するための補助具の有効性を適正に評価する試験を実施すること自体が難しく、その証明が難しいのです。研究によっては全く逆で、補助具の使用と転倒リスクの増加との間に関連性があることを指摘しているものもあります(参考文献1)

しかしこれは、歩行やバランスがより損なわれている人に補助具を処方する傾向があるため、バイアスがかかっている可能性が高いでしょう。

「科学的な根拠がない」という言葉は、よく「有効でない」「無効である」という意味に取られてしまうことがありますが、そうではありません。「有効かどうかが分からない」というのが正確な意味です。

また、医師が何かを処方する際、必ず有益性と有害性を天秤にかけますが、杖や歩行器には考えうる有害性が少ないことから、有効かどうかは必ずしも分からないけれども勧めることがあるというわけです。

 
  • 1
  • 2