フリーアナウンサー馬場典子による「言葉」にまつわるコラム新連載。知っておくと便利な言葉、使い方に気をつけたい言葉など、気持ちが伝わる“言葉づかい”のヒントをお届けします。

 

自分の妻を「嫁」と呼ぶのは間違い?


女性配偶者の呼び方について考えてみた時、まず、男性よりも言葉が多いことが興味深いです。時代とともに女性の立場が移り変わってきたことや、女性の立場の多様さが、表れているように感じます。

 

「奥さん」「奥様」は、公家や大名など身分ある人の妻が奥の方に住んでいたため、敬意を持って「奥方」と呼ばれていたことに由来しています。
音の響きも柔らかいのですが、昨今「奥」が時代に逆行するという印象を持たれていますよね。

「家内」は本来、家内安全のように「家の中」や「家族」という意味だったものが、明治時代、外で働くようになった男性が、「家の中の人」という意味で妻のことを呼ぶようになったそう。
女性に参政権がなかった時代に使われ始め、「奥」よりもダイレクトに、女性は家の中にいるものと表現している点が気になります。

「女房」は、もとは身分の高い人の世話をする使用人の女性が住んでいた部屋を意味し、それが「使用人」のことも指すようになった言葉。
恋女房、世話女房、姉さん女房など、個人的には一番「情」を感じるのですが、由来にはっきりと上下関係があることを知ってしまうと……。しかも砕けているので、出番が限られそうです。

「かみさん」は、貴人や目上の人を指す「上様(かみさま)」が変化したもので、商人や職人などの妻を呼ぶようになったもの。
由来は良いのに、今ではかなり砕けた印象になっているのがもったいないですね。ただ、「おかみさん」には、親しみや敬意が感じられます。

「妻」という漢字は、かんざしに右手をやり髪を整える女性。「夫」と同様に、一番フラット、かつオフィシャルな呼び方です。

「嫁」は、現在は結婚したばかりの女性、新婦などにも広く使われていますが、辞書には「息子の嫁」とあり、本来は夫の親が息子の配偶者に対して使う言葉。夫が妻のことを嫁と呼ぶのは、実は間違いなのですね。

さて、友人の女性配偶者をどう呼びましょう。
まず、第三者が使えるのは、奥様、女房、(お)かみさん。
由来からも、砕けた印象からも、女房は却下。
おかみさんは、旅館やお店や相撲部屋などのイメージが強い。
奥様は、どちらかというと消去法で残る感じですね。

「パートナー」も一案ですが、目上の方には使いづらく、いざ使ってみると、同世代でも一瞬戸惑っていることがあります。
そんなわけで私の中では、性別に関係なく呼べる「お連れ合い」が今のところ第一候補ですが、実際は、相手にとって違和感のなさそうな言葉を選んでいる状況です。

最近、若い世代では「夫さん」「妻さん」と呼ぶ方が増えているそうです。言葉の厳密さよりも、時代や自分たちの感覚にフィットしているかどうかを大事にしているのかもしれません。
昔から言葉は時代とともに変化してきたものなので、今後、奥様のイメージが「奥の部屋」よりも「妻への敬意」の方にフォーカスされていったり、全く新しい呼び方が生まれたりしたら、それも面白いな、と思っています。

2004年の舞台、福澤一座「進め!ニホンゴ警備隊」では、妻を二役、やらせて頂きました。 右から、ダジャレ好きなお父さんを演じた藤井恒久アナウンサー、演劇集団キャラメルボックスの三浦剛さん、小川江利子さんとの田頭(たがしら)一家。 (肩書きはいずれも当時)


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