フリーアナウンサー馬場典子による「言葉」にまつわるコラム新連載。知っておくと便利な言葉、使い方に気をつけたい言葉など、気持ちが伝わる“言葉づかい”のヒントをお届けします。
言葉でリトリート
「舌というのは鋭いナイフのようなもので、血を流すことなく殺すものである」
とは、ブッダの言葉だそうです。
昨今SNS上の誹謗中傷が大きな問題となっているように、言葉は刃や暴力にもなり得えます。
では、自分の発する言葉を一番多く、強く受け取るのは、誰だと思いますか。
家族や親友、パートナーなど、身近な人を思い浮かべた方もいらっしゃるかもしれません。
私自身、子供のころ親や友人から投げかけられた言葉は、大人になった今でもなかなか根深く残っています。
ですが答えは、自分です。
たとえ口にしなくても、頭に浮かんだ言葉は、誰よりも一番に自分に投げかけられ、刷り込まれてしまうそうです。ちょっと考えれば当たり前のことなのですが、意外と自覚していないものですよね。
私の場合、タイガー・ウッズ選手のあるエピソードに触れたことがきっかけでした。
それは、優勝争いがもつれた時の、ライバルに対する姿勢。
相手がこのパットを入れたらプレーオフ(という延長戦)、外してくれれば自分の優勝、という場面で、ウッズ選手が考えることは……
「入れ!」
だというのです。
なぜ敵に塩を送るような言葉を投げかけるのか。
それは、今後、自分がパットを打つ時にも、同じ言葉が蘇るからだそうです。
この試合さえ勝てば良いのではなく、この先もずっと戦い続ける自分のために、たとえ優勝がかかった場面でも、ライバルに対しても、前向きな言葉しか念じないのだそうです。
まさに、超一流の流儀です。
それまでの私は、実際に誰かに何か言われたわけでもないのに、私ダメかも……とか、みんなこう思ってるだろうな……などと、後ろ向きな想像をしてしまって、自信を失くしてしまう、本当にそんな気がしてしまう、なんて経験が良くありました。
でも実は、他の誰でもない、自分の不安から生まれた、自分の言葉や考えなのだと気づかされました。
今でもちょっと弱っていると、つい良からぬ方向に考えてしまいますが、歳を重ねるとなかなか図々しくなるもので(笑)、
「大丈夫大丈夫」
「OK」
「気にしない、気にしない」
「結構頑張ってるよ」
「お疲れさま」
「今日もビールが美味しいね〜」
などと、あえて言葉にしてみると、なんだか元気が出てくるから不思議です。
言葉は毒にもなりますが、薬にもなるようです。
海や森、美味しいものと同じように、自分を癒す力、リトリートする力があるのですね。
Comment