親は手放してしまっていい
子どもは、親の欲求や願望を満たす道具ではありませんし、そのために生まれてきたのではありません。どこまでも献身的に親の欲求にこたえ続けることは、親を増長させるだけで、感謝も終わりもやってはこないのです。
〈もう面倒をみきれない〉
〈これ以上親の欲求に応じきれない〉
そう思ったときは、自分から手を離すことです。親を社会に返しましょう。
もちろん、年老いた親を目の当たりにして、本心から〈みてあげたい〉と思えるなら、それは素敵なことです。しかし、自分の心身の健康を犠牲にしてまでやることではありません。そんな姿を見せることは、自分の子どもたちにもいい影響はありません。
これまで親からさんざんな目に遭わされてきた子どもが、その恐怖心を抱えたまま同居、介護をする必要など、どこにもないのです。
親の面倒をみきれない人のためにあるのが、医療や福祉といった社会のさまざまなセーフティーネットです。大いに利用し、ぜひ、親を手放してください。そして、あなたが手を離したあと、一体何が起きるかを観察してみましょう。
あなたに親をまかせきりにしていた、きょうだいや親戚などの身内が前に出てくるかもしれませんし、高齢で病弱な親なら病院あるいは福祉サービスが、暴力的な親なら警察と精神科が関わるでしょう。ひとりで背負わなくても、「何とかなる」のです。
もしかしたら親は「薄情者」「裏切り者」などと罵詈雑言を浴びせるかもしれませんし、まわりからは「冷たい」と言われるかもしれません。でも、仕方ありません。「事情を知らない人には言わせておけばよい」この考え方が大切です。
いきすぎた我慢や自己犠牲はいずれ毒に転じて、やがてはあなたが親とそっくり同じになってしまいます。そのような連鎖は何としても防ぎたいものです。
著者プロフィール
藤木美奈子さん:大阪市生まれ。一般社団法人WANA関西代表理事、SEP研究所所長。元龍谷大学准教授。貧困家庭に生まれ児童虐待やパートナーからのDVを経験する。女子刑務所刑務官、会社経営などを経て、2008年に大阪市立大学大学院で博士号(創造都市)を取得。家庭内暴力の当事者支援を25年以上にわたり続けながら、WANA関西(1995年創設)、児童相談所、福祉施設などで自尊感情回復のための心理プログラム「SEP」の実践研究を行っている。著書に『親に壊された心の治し方 「育ちの傷」を癒やす方法がわかる本』(講談社)ほか多数。
『親の支配 脱出マニュアル 心を傷つける家族から自由になるための本』
著者:藤木美奈子 講談社 1650円(税込)
「毒親」育ちのトラウマはどう克服すればいいのか? 相談はどこにすればいいか? 虐待サバイバーでもある著者が、過去のトラウマ=“育ちの傷”を乗り越えるための具体的な方法を、豊富な実例と共に教えます。大人になってもひとり“生きづらさ”を抱えて生きる人へ贈る、「誰かに頼る」ためのヒントが得られる一冊です。
構成/金澤英恵
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