ソーシャルライター・松本愛さんが、DV被害にあった当事者の「声」を丹念に拾い上げ、DVの裏側にある日本のジェンダー意識の遅れと、法制度とその運用の問題点、それ故の救いのなさをレポートしていく『DVアリ地獄』第18回です。
※個人の特定を避けるためエピソードには脚色を加えている場合もあります
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苛烈なDVに、わずか数年でボロボロに蝕まれていく精神
結婚相談所で出会った男性。バツイチではあったものの、本人から説明された離婚理由は納得のいくもので、ほか戸籍等に問題もなかったため結婚。そして順調に妊娠。Dさんは思い描いていた人生の幸せを手に入れたハズだった、のですが……。
妊娠後、夫がいきなり豹変。
妻に対して、酒を飲んでは暴力を振るい、夜通し説教。ときには子どもが見ていてもお構いなしでDさんを家から追い出し締め出す。そして何もないときでさえ妻の痛がることをして、その様を嬉しそうに見つめるという、とんでもないサディスティックな男性だったことが判明したのです。
結婚当初はお弁当を持って仕事に行っていた夫でしたが、次第に家にいる時間が長くなり、昼休みにご飯を食べに帰ってくるようになってからは、気付いたらそのまま家で酒を飲むようになり、そうして酔っ払った夫の説教を聞かされるDさんは保育園のお迎えに間に合わないことが増えるようになりました。
加えて経済的なDVも始まります。自営業の夫から渡されていたのは月に20万円。しかしそこからご飯にうるさいうえアル中の夫の食費と底なしの酒代、飲み代、外食費に雑費、光熱費、保育園代に習い事代と来て、さらに「俺を怒らせたら罰金」と、1回千円の罰金を結構な頻度で巻き上げられる。大赤字です。
そこまでしておいて、本気なのか嫌がらせなのか「半分は貯金できてるんだろうな」などと聞いてくるから腹立たしい。
貯金なんてできるわけがありません。貯金どころか夫が滞納していた国民年金の支払いまでまとめて引き受けたDさんは、結婚前の貯蓄に手を付けざるを得ない状況に追い込まれていました。
「何年かかってもいい、離婚しよう」と長期戦を覚悟していたDさんでしたが、思いのほか苛烈なDVにわずか数年で彼女の精神は蝕まれつつありました。しかし夫がずっと家にいる状況では、外に相談に行くことも助けを求めることもできません。
ある日のこと。夫が「息子にピアノを習わせろ」というので、その通りに近所の音楽教室に連れて行ったDさん。
するとピアノの先生から「習い事をさせるにあたってどんな子になってほしいですか?」と聞かれたといいます。するとDさんの口からスッと出たのが「大人の言うことを聞く子になってほしい」という言葉でした。
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