大人になってから気づくことも多いという、「ASD(自閉症スペクトラム障害)」。ASDとは、コミュニケーションや興味、こだわりなどについて特異性がみとめられる、発達障害のひとつです。発達障害を専門とする医師・宮尾益知さんの『発達障害と人間関係 カサンドラ症候群にならないために』によれば、ASDの罹患率は68人に1人の割合(1.68%)とも報告され、日本の人口に当てはめると180万人以上にのぼる計算に。

特に、男性の罹患率は女性の約4倍多いとされていることから、「ASDの夫を持つ妻」がコミュニケーション不全をはじめとする夫婦不和に思い悩み、心身ともに様々な不調をきたす「カサンドラ症候群」に陥るケースが少なくないと言います。

「カサンドラ症候群」とは一体何か、そしてASDの夫のどんな言動が引き金になるのか――今回は特別に本書から一部抜粋してご紹介します。大人の発達障害について理解を深めることで、夫婦間の息苦しさの理由、そのヒントが見つかるかもしれません。

【大人の発達障害】ASDの夫を持つ妻が陥る「カサンドラ症候群」とは何か_img0
 

カサンドラ症候群(Casandra Affective Disorder)、カサンドラ情動剝奪障害(Casandra Affective Deprivation Disorder)といわれても、いまはまだ「よくわからない」という人が多いかもしれません。

「ASD(自閉症スペクトラム障害)」の夫または妻、あるいはパートナーと情緒的な相互関係が築けないため、その相手(配偶者やパートナー)に生じる身体的・精神的症状を表わす言葉です。医学的に正式な診断名ではありませんが、知的な遅れのないASDの配偶者やパートナーとの、会話や親密な関係の不在に悩む用語として、精神科の医師などの間では広く使われており、パートナーや配偶者などとの情緒的交流の不在に悩む状態を的確に表わしている呼び方です。

 

具体的には、妻が夫とのコミュニケーション上の苦痛を周囲の人たちに訴えても、夫には問題がなさそうに見えるため誰からも信じてもらえず、結果として自分一人で苦しみ悩んでしまう症状を「カサンドラ症候群」と呼んでいます。

夫がASDの特性を有するがゆえに起こる人間関係のトラブル、互いに譲らず対立し、いがみ合うといった葛藤は、社会性の未熟さ、コミュニケーションや相手の立場を想像することの苦手さという特徴からくるものです。

こういった夫との結婚生活では、夫婦間のコミュニケーションがうまくいかない、気持ちが伝わらない、子育ての不安や悩みなどを共有してもらえない、夫からの言動に傷つくなど、妻にとって苦痛の日々を日常的に強いられます。いわゆる「犬も食わない」とされる一時的な夫婦ゲンカとはその性質が異なり、継続的に続きます。そのため夫との情緒的交流がうまくいかないことが妻の無力感、孤独感、絶望感につながり、抑うつ状態を引き起こしていることが知られるようになってきました。

「夫がそばにいるだけで動悸がしてくる」という状態に至るまでには、その夫婦にしか知りえないたくさんのエピソードがあります。大きな出来事よりも、小さいけれども、本質的なすれ違いの積み重ねがカサンドラの状態を引き起こしているケースが多いのです。
 

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大人のASDの特性と、カサンドラ症候群の典型的な症状
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