妊娠と出産の時に妻は傷つきを経験する

 

妻がカサンドラ症候群に陥るきっかけのひとつに、妊娠(出産)があげられます。とりわけ、初めての妊娠と出産はどんな女性にとっても大きな不安を感じるものです。そして妻は誰よりも夫が支えてくれることを望みます。同時に出産を控えた妻は心身ともに非常に過敏になっているので、周囲から何気なくかけられた配慮のない一言に心を痛めることも多いものです。

その時期に夫の特性が妻の常識から大きくズレていたため、夫に大切にされていないと気づく妻はたくさんいます。ほとんどの人がその時まで夫がASDであることに気づきません。そのため、妊娠や出産の時期の言動でその特性に気づくケースが多いのです。

たとえば妊娠中のつわりがひどく、ほんの少しの臭いにも吐き気をもよおし、苦しんでいるのに、「そんなに苦しいなら堕ろしていいよ」と夫から言われた時の妻の衝撃が計り知れないということは理解できると思います。同じように、妊娠中、「子どもがどうしても欲しいというわけじゃないよ」と言われ落ち込んだ妻もいます。

ここでのポイントは、夫には決して悪気があるわけではない、ということです。この感覚のズレは、相手の気持ちや状況を「想像することが苦手」というところから生じています。妻が経験していることを、夫が妻と同じ気持ちで経験し、想像し、「共感する」ことができず、そのため、ASDの夫たちは目の前の問題を解決しようとして、まったく配慮のない、常識では考えられないような言葉や行動をとってしまうのです。

 


風邪で寝込む妻に「僕の今晩のご飯は?」と尋ねる夫


ASDの人は曖昧な表情を読み取ることが苦手です。妻がつわりや出産で苦しんでいる姿は、まるでがんの化学療法を受けている人のように見えます。苦しんでいる妻を見て、夫は妻の気持ちに寄り添うよりも、とにかく目前で苦しんでいる妻の苦しみを解決しようとします。先ほどの「そんなに苦しいなら堕ろしていいよ」という言葉はいくらなんでもひどいですが、ASDの特性を理解すれば、実は妻を愛していて苦しむ姿を見たくなかったのだと説明できます。

夫たちは感情がないわけでも冷血なわけでもありません。ただ、困っている様子を見た時、妻の感情にフォーカスするのではなく、妻が苦しんでいるという問題を解決することに焦点を絞ってしまうのです。