フランス在住の作家・パリュスあや子さんが描く、愛の国フランスに住む日本人の恋愛模様。駐在妻・葉子の場合はーー。
ソフィから勤め先のホテルの従業員との浮気話を聞いた葉子。不倫の原因とリスクを熱く語り合うがーー。
三年目のシャンパンフラッシュ(5)
明後日、いよいよ武臣がパリにやってくる。
心浮き立つ反面、会ったら確実に身体の関係を持ってしまうことがわかるから恐ろしい。一度の美しい過ち、では済ませられなくなる。
啓介と別れたくはない。
元々、恋愛というよりパートナーとしてやってきた。私の言い分をわかってくれなくて腹が立つこともあるけど、それは私が言葉足らずだからなのもわかっている。お互い個人主義ゆえの弊害でもあり、でもこの距離感は楽。他の男とでは、たぶん得難い。
今の生活に100%満足はしていないけれど、失いたくもない。
ただ、少し潤いが欲しい。
不倫はいつか終わりを迎えるものだ。進むほど泥沼になり、終わり方次第では地獄。
気だるく頬杖を突いて窓の外に目をやると、エッフェル塔の尖塔が今日も誇り高く輝いている。
武臣とはパリでのアバンチュールと割り切っているけれど、武臣は私が帰国してからも関係を続けたいと思っているんだろうか……
「葉子、今日これから時間ある? 悪いけど、私の代わりに働いてくれない?」
昨日、散々ディープな「不倫論」を語り合った後、ソフィは痛飲して不貞寝してしまったらしい。気付けば十五分後に就業時間が迫っていたが、職場まで一時間はかかるうえ、頭がガンガンして働けそうにない。同僚に穴埋めを頼んだが断られてしまった、と電話口で泣きつかれた。
「フランスで働いてみたいって言ってたでしょ? 今日の給料分、私から払うから」
「でも違法だよ? 私、客室清掃も知らないし」
「大丈夫、ボスには話も通してある。難しい仕事じゃないし、お願い! 良い機会じゃない、社会見学と思ってさ」
まだパジャマ姿で脳みそも働いていなかった私は、簡単にソフィに丸め込まれてしまった。
大慌てで黒パンツに白シャツという無難な格好に着替えると、近所のホテルに向かった。
一度だけソフィに連れられてホテルに立ち寄ったことがある。ソフィは受付にいた眉が濃くて彫りの深い、華奢な雰囲気の青年と親し気に話していた。そして後から「彼が例の……」とニヤリとしたのだ。
「ボンジュー。ソフィの代わりに来ました、葉子です」
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