ある男の日常が、突然現れた9人家族に取り込まれていく不条理劇。安部公房による傑作戯曲をもとに、気鋭の若手演出家・加藤拓也さんが演出・上演台本を手がけた舞台『友達』がいよいよ幕を開けます。

不気味な9人家族のひとり、「長男」を演じるのは林遣都さん。ここ数年コンスタントに舞台への出演を続けている林さんにとって、舞台ならではの魅力とは。いまだ苦境を強いられるエンタメ界、そして大好きな芝居への想いとともに語ってもらいました。

 


不条理劇にはいつの時代も、日常に通ずるものがあると思う


ーー林さんにとって初めての不条理劇ですね。台本を読んでみての印象は?(※稽古入りの前に取材)

最初は、正直、「難解な話」という印象でした。数回台本を読んだだけでは到底理解しきれない複雑さを感じました。ただ不条理劇には、いつの時代も必ず日常に通ずるものがあると僕は思っていて、とくに今のこの状況下に生きている皆さんにとっては、観る人それぞれの解釈で楽しんでいただけると思っています。今って何かに疲れたり、苦しくなったりという思いを誰しもが抱えていると思います。そういう中で今回のような、いわばエグみの強いものに触れることでその気持ちがラクになったり、また生きる上での暗い部分を共有することで気が紛れたり……。不条理劇とはそういう不思議な力を秘めてると感じます。

ーー演出と上演台本を担当した加藤拓也さんはまだ20代。舞台以外にドラマや映画といった映像作品でも活躍する気鋭の演出家です。

加藤さんについては以前から「若くてすごく面白い演出家がいる」と多くの方から聞いていましたし、加藤さんが手がけた舞台『誰にも知られず死ぬ朝』を観た時にも度肝を抜かれました。今後間違いなく「奇才」と呼ばれる方。そういう才能の持ち主とご一緒できるのは本当にワクワクします。おそらく予想だにしないことばかりが起きそうな予感がします。

 

ーー年下の演出家さんとは初めてとのことですが。

加藤さんは年下ですが、年齢のことは考えもしませんでした。もちろんお若いですが、創り上げた舞台を観ても、幅広い知識があって、ある意味、達観していらっしゃる方だ、と感じました。自分が年を重ねるにつれて年下の方とご一緒する機会は増えていますが、この仕事は本当に年齢は関係ないと思うんです。もちろん、世代が違えば、それぞれの価値観や考え方が異なるのは当然なので、そこはつねに柔軟でいたいとは考えています。

自分の10代・20代を振り返ると、いつも悩んでいた気がします。自分の理想とするところに自分がいない、という悩みが多かった気がします。もちろん、それなりに刺激的で充実した時間を送れた自負はあって、全く悔いはありません。でも、あの時期にもっとああいうことをしておけばよかったという反省はやはりあります。だから、その思いにこれからの30代でしっかりと向き合って、時間を大切に使い、日々成長できるよう心がけていきたいと思っています。

ーー加藤さんの存在は、今回の出演の決め手だったりもするんでしょうか。

舞台に関しては、演出家さんだったり出演者の皆さんだったり、まず「人」が第一です。それにプラスして、今回のような難解な作品にはいつも必ず学びがあります。きっと新しい何かに出会えるのではないかという可能性を感じました。

ーー共演の俳優陣もすごい顔ぶれです。初共演の方も何人かいらっしゃいますね。

鈴木浩介さんと山崎一さんは今回初めてご一緒します。山崎さんは何度も出演舞台を拝見してきましたが、毎回目が離せなくなる方。浅野(和之)さんや(キムラ)緑子さんもそうですが、演劇界で「神様」とか「モンスター」と呼ばれている方々が今回は多く出演されています。その皆さんを稽古場から本番の期間中ずっと間近で拝見できるのが本当に楽しみです。

 


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強い瞳に吸い込まれるよう……林遣都さん、30歳の肖像
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