結論から言うと、少なくとも所得税に関して言えば、低所得の人が実質的に無税に近い状態であるというのは事実です。所得税の名目税率は、課税所得が400万円の場合20%ですが、実際には各種控除が適用されますから、年収400万円の人の課税所得はこの金額よりも大幅に低くなります。
控除額は扶養の有無などによって異なりますが、年収400万円の人が支払う実際の所得税額は数万円というレベルがほとんどなので、限りなく無税に近いといってよいでしょう(もし気になるようでしたら、ご自身の源泉徴収票をチェックしてください)。
欧米各国の場合、低所得でもガッチリ税金が取られますから、日本の場合、所得が低い人ほど税制面で優遇されているのは事実です。
ただ、税金というのは自然現象ではなく、主権者である国民の総意として法律によって定められたものです。もし不備があれば、法律を改正すればよいだけの話ですから、今の制度で税金を払っていない人は発言する資格がないといった話は、当然ですが当てはまりません。
また、若い世代との比較についても、税率だけで議論するのは公平とは言えないでしょう。日本の税制は以前から同じ体系で、お金持ちからたくさん税金を取り、お金がない人からは税金を取らないという考え方ですから、昔も低所得の人は所得税を払っていませんでした。
しかし、今、中高年になっている人は、消費税がゼロもしくは3%といった時代に若い時代を過ごしており、消費に際して税金を負担する必要はありませんでした。また年金保険料の料率も、厚生年金の場合は現在18.3%ですが、1980年代は12.4%でしたから、同じ年収であれば税金や保険料の金額はかなり小さかったと言って良いでしょう。
しかも日本の相対的な賃金は今よりもずっと高く、輸入品も安く買えましたから、今の若者世代の負担感の重さは、当時とは比較になりません。
近年、負担感が極めて重くなっている理由は、日本が経済成長できておらず、日本人の賃金が上昇していないことに加え、高齢化が進み、社会保障の負担が増大していることです。経済が順調に成長し、賃金が上がっていれば税収も増え、結果的に高齢化の問題にも対処できますから、最終的には日本が成長できていないことがすべての元凶ということになります。
戦後の日本は、お金持ちから税金を取るという方針であり、どちらかというと弱者に優しい税制でしたが、日本経済の貧困化が進んだことから、たとえ所得税が安くても、低所得の人は苦しい生活を余儀なくされているというのが現実でしょう。
前回記事「コロナ禍での医療崩壊が「必然」だった理由。国民皆保険制度の盲点とは」はこちら>>
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