ただし、特に高齢者の不眠症の治療を行う場合は、睡眠薬の副作用リスクが大きな問題になります。

薬の副作用リスクは年齢とともに増加することが知られています(参考文献2)。そして、不眠症の治療薬の副作用として、歩行を不安定にさせて転倒を増加させたり、日中の眠気を招いたり、認知機能を悪化させる可能性が指摘されています(参考文献3)

また、薬の種類によっては、不整脈などの重篤な副作用をもたらすこともあります。年齢とともに薬の代謝が遅れるため、若い頃から飲みなれていた薬でも、高齢になると急に副作用が問題となることもあるのです。

若い頃であれば数時間で効果が切れていた薬が、歳とともに効果の持続時間が何倍もの長さになり、睡眠薬の効果が日中にまで及んでしまう。その結果として日中のだるさや眠気につながってしまうことがあるのです。これでは本末転倒です。

薬を用いない治療法で改善を


これらの懸念から、高齢者では、しばしば認知行動療法と呼ばれる薬を用いない治療が選択されます。

この治療の中には先に述べたような生活習慣の見直しも含まれますが、睡眠に対する意識変容を促し、リラックス法を学ぶといった内容も含まれます。メディテーションやマインドフルネスのセッションが用いられることもあります。実際に、認知行動療法は、高齢者を対象とした研究において、個人およびグループの両方で有効性が示されています(参考文献4)

高齢者の睡眠を助ける可能性のある方法は、他にも太極拳などが知られています。

薬を使わず睡眠の質を上げる!不眠症を治すために自分でできる7つのこと【医師が解説】_img0
 

太極拳の不眠に対する有効性を示した研究では、320人の60歳以上の不眠症の高齢者が集められ、太極拳を行うグループ、通常の運動を行うグループ、何も介入しないグループの3グループに分けられました(参考文献5)。そして、太極拳のグループは週に3回、1回1時間の太極拳のセッションに参加し、運動のグループでは同じ時間、頻度で運動プログラムが提供されました。

 

これが12週間ほど続けられ、その後、睡眠がどう変わるかをアクチノグラフィーと呼ばれる装置を使って観察しました。

すると、太極拳および運動のグループでは、12週間でプログラムが終わったにもかかわらず、その後2年もの間、入眠までの時間の短縮や中途覚醒の回数の減少などの変化が継続的に見られ、不眠症に対して、中長期的に有効であることが示唆されました。

こういった研究から、運動や太極拳も不眠症に有効であると考えられ、薬を用いない治療法として、活用されています。


前回記事「睡眠薬を飲む前に。不眠症の改善はまず原因にアプローチを【医師が解説】」はこちら>>


参考文献
1 Jaehne A, Loessl B, Bárkai Z, Riemann D, Hornyak M. Effects of nicotine on sleep during consumption, withdrawal and replacement therapy. Sleep Med Rev 2009; 13: 363–77.
2 Tan JL, Eastment JG, Poudel A, Hubbard RE. Age-Related Changes in Hepatic Function: An Update on Implications for Drug Therapy. Drugs Aging 2015; 32: 999–1008.
3 Pomara N, Stanley B, Block R, et al. Adverse effects of single therapeutic doses of diazepam on performance in normal geriatric subjects: relationship to plasma concentrations. Psychopharmacology (Berl) 1984; 84: 342–6.
4 Sadler P, McLaren S, Klein B, Harvey J, Jenkins M. Cognitive behavior therapy for older adults with insomnia and depression: a randomized controlled trial in community mental health services. Sleep 2018; 41. DOI:10.1093/sleep/zsy104.
5 Siu PM, Yu AP, Tam BT, et al. Effects of Tai Chi or Exercise on Sleep in Older Adults With Insomnia: A Randomized Clinical Trial. JAMA Netw open 2021; 4: e2037199.

構成/中川明紀
写真/shutterstock

 
  • 1
  • 2