利害関係が激しく対立した時に、岸田氏がどの程度のリーダーシップを発揮できるのか今のところ未知数と言わざるを得ません。持ち前の対話力を生かして説得できるケースもあるかもしれませんが、政治というのはそれだけでは済まない部分があります。対話重視の姿勢があだになり、多くの人の話を聞きすぎて、収拾が付かなくなることも十分に考えられるからです。

今回の組閣や党人事については、一部の論者が安倍元首相や麻生元首相など党重鎮の影響が強すぎると批判しています。

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10月4日、岸田内閣が発足。首相官邸での記念撮影。写真:代表撮影/ロイター/アフロ

確かに安倍氏や麻生氏が世代交代によって自らの影響力が低下しないよう、岸田氏に様々な要請をしているのは事実でしょう。しかしながら、安倍氏が総裁選で支持した高市早苗元総務相は政調会長というポストにとどまっていますし、官房長官に就任した松野博一氏も細田派(安倍氏が所属する派閥)とは言え、安倍氏とは少し距離がある人物です。また党運営の要となる幹事長は、個人的には安倍氏とは近いものの、派閥としては麻生派に属する甘利明氏を据えました。各派閥や有力者の意向は受け入れつつも、どこか1点に権力が偏らないよう工夫していることが分かります。

 

利害関係者のバランスをうまく取っているという点で、岸田氏らしい人事ということになりますが、これを短所と捉えた場合には、やはり強いリーダーシップを発揮できないというリスクがありそうです。

岸田氏が本当に目指す政策を実施できるのかは、賃金アップや教育支援、住居支援など具体策の検討に入った段階でハッキリしてくると思います。

当然ですが、こうした施策が提案されると、必ず反対意見が出てきます。反対する立場の人たちをうまく説得できるのか、あるいは力で押し切るのか、いずれの方法にせよ政策が実現に向けて動き出すはずです。一方で、こうした利害関係の調整がうまくいかないと、各政策は尻すぼみとなり、話題にのぼらなくなるという形で自然消滅する可能性が高いでしょう。

岸田氏がリーダーシップをうまく発揮できなかった場合、私たちの生活に大きな変化は生じません。安倍政権や菅政権で行われてきた政策が継続されることになりますから、しばらくは今と同じ状況が続くことになります。一方、岸田氏が賃金アップを本当に実現できれば、ゆっくりとしたペースではありますが、私たちの生活も上向いてくる可能性があります。


前回記事「「45歳定年制」の波紋の裏で、国は生涯雇用を要請。ねじれの中でこれから起こること」はこちら>>

 
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