コロナ禍も一段落(?)し、待望の観光シーズン到来! 紅葉が見頃を迎える京都を訪れる予定の方も多いのでは? 紅葉だけじゃもったいない、ぜひ苔庭も堪能していただきたい! 京都にはコケを取り入れた個性豊かな日本庭園が数多くあるんです。コケの魅力に取り憑かれたライターの藤井久子さん(岡山コケの会、日本蘇苔類学会会員)が、京都・東山山麓のコケスポットを案内します。せっかく行くのだから1か所と言わず複数か所を効率よく、できればお財布にも優しくめぐりたい、そんな人にお勧めのモデルコースをご紹介。

※本記事は藤井久子さん著『コケ見っけ!日本全国もふもふコケめぐり』(家の光協会)より一部抜粋して構成しています。​

 



東山山麓を苔庭はしご


日本が誇る歴史的建造物の宝庫であり、伝統文化が息づく京都は、いまも昔も世界的に人気の観光都市だ。関西圏に住む私は、京都までJRで片道約1時間という行きやすさもあって、これまで訪れた回数は数知れず。しかしいまだに「明日、京都へ行く」となると前日の晩から胸が躍る。それだけ京都には何度訪れても人を飽きさせない魅力がある。関西圏の私ですらこうなのだから、遠方からの旅行者はさぞかし期待に胸をふくらませることだろう。

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天授庵にて撮影。眼福のひととき

とはいえ京都は、どこもかしこも見所だらけ。美しい苔庭がある古刹も多く、調べれば調べるほど、どこへ行くべきか悩む。限られた旅程でいかに京都の苔庭を満喫するか。せっかく行くのだから1か所と言わず複数か所を効率よく、できればお財布にも優しくめぐりたい。そんな人におすすめなのが、東山山麓の寺の苔庭をめぐる〝苔庭はしご〞だ。

「東山」とは一つの山の名称ではなく、京都市の中心部から見て東側に連なる山々の総称。東山山麓に位置する南禅寺、法然院、銀閣寺、慈照寺は境内と山がひとつらなりになっているところが多く、都市部近郊とは思えぬほどコケが豊かだ。南禅寺から法然院を経て銀閣寺まではおよそ2キロメートルなので、歩いてはしごすることも十分可能な距離。たとえば、筆者のめぐり方はこんな感じだ。

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法然院。苔生した茅葺き屋根の山門がフォトスポットだが、足元のウマスギゴケもすばらしい

スタートは京都市営地下鉄東西線の蹴上駅。駅近くにあるレンガ造りのトンネルをくぐって10分ほど歩くと、まず南禅寺が現れる。南禅寺は13世紀の鎌倉時代に亀山法皇が臨済宗の僧・無関普門を招いて開創した臨済宗南禅寺派大本山の寺院だ。大本山というだけあって境内は広く、方丈(本堂)以外にも別院や塔頭がいくつもある。これらすべてを回っているとかなり時間がかかってしまうので、今回はとくにコケ度が高くて個人的にも好みな2か所に絞ることにする。

まず一つ目は南禅院。ここには鎌倉時代末期に作庭されたという池泉回遊式庭園がある。池には上池と下池があり、下池の目の前には、苔庭のコケの代表格・ウマスギゴケが一面に広がっている。一方、上池は林に囲まれて少し薄暗いが、小さな滝があって清々しい水音の中でしっとりとしたコケを愛でることができる。京都の中でも指折りの古い歴史をもつこの庭園は、決して広くはないが方丈や他の別院とは雰囲気が異なり、素朴で趣深い雰囲気が楽しめる。

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南禅院の苔庭。素朴で趣深い雰囲気が楽しめる

次に訪れた天授庵は、枯山水の庭(東庭)と池泉回遊式庭園(南庭)があり、両庭のコントラストがとても面白い。門をくぐって最初に現れる枯山水は、白砂の中に菱形の畳石がまっすぐ並べられ、その周りをウマスギゴケが旺盛に覆う。幾何学模様のシャープさとコケのやわらかさが相まってとてもモダンだ。一方、池泉回遊式庭園は日当たりや湿度の具合に合わせて多彩なコケが自由にのびのびと繁茂しているという感じで、どこを歩いても楽しい。とくに池の内側に突き出した石組、手水鉢など、コケが景観の主役となっている場所もあり、眼福のひと時を過ごせる。

 
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