時代の潮目を迎えた今、自分ごととして考えたい社会問題について小島慶子さんが取り上げます。
前回の選挙は投票しましたか? 今回は、どうしますか。食卓で、選挙の話をすることはありますか。政治の話なんて固い話題は……という人も多いかもしれませんね。私は息子たちや友達ともわりとそんな話をします。別にうんと詳しくなくても、世の中のことを気軽に話せるといいですよね。ミモレ世代が普段から政治や社会課題について話すようになると、日本の社会に漂う「政治=難しい話、詳しい人のもの」という思い込みを変えることができるかもしれません。
もうすぐ衆院選ですが、毎度話題になるのは投票率の低さ。政権交代が起きた2009年の衆院選での投票率は70%代でしたが、その後は下がり続け、今は有権者のおよそ半分しか投票していません。特に若い世代の投票率が低く、10代40%、20代34%、30代45%。結果として、全体の半数、しかも熟年・高齢世代に偏った有権者たちが選んだ「多数派」政党が、世の中のことを決めています。ニュース映像を見てなんとなく「日本人の多くはこの人たちを選んだのだから、これが民意なのだな」と思ってしまいますが、実際には世の中の4分の1程度の人しか選挙で支持していないのですね。
ただ、いざ選挙に行こうと思っても、候補者がどんな人かもわからないし、ポスターを見ても正直言ってあんまりピンとこない。ニュースで「これが争点」って言ってても、興味がもてない。自分のような素人に判断できることじゃない。そんなふうに感じる人が多いでしょう。
選挙の争点って、人によって違って当たり前なんですよね。人それぞれに重要課題は異なります。ある人は子供の学費で頭がいっぱいで、ある人は親の介護で手一杯、ある人はハラスメントに悩んでいて、ある人は好きな人と結婚したくても法的に認められていないことに苦しんでいる。だから、ニュースで「これが争点だ」と言っていることが遠く感じられることがあっても当然です。
投票するときには、全ての課題に精通していなくてもいいのです。そして、候補者に完璧を求めないこと。「この人最高!」な候補者には、滅多に出会えません。でも、自分にとって一番切実な問題について、与えられた選択肢の中から「一番マシ」な候補者や政党を選ぶことが、意思表示になります。その一票を投じなければ、自分にとって大事な課題を軽視する候補者が当選してしまうかもしれません。あなたの一票があるとないのとでは、確実に結果は違ってきます。
今回は、そんなバラバラな課題を持つ私たちが、パンデミックという同じ課題に直面している中での選挙。あなたは、コロナ禍で「こんなのおかしくない?」と思ったことがありましたか。「もっとこうしてほしい」とか。普段から「なんでこんなに生きづらいのかな」と思っていることを、より一層強く感じた人もいるでしょう。投票は、それを行動で示すチャンスです。
自分の課題ってなんだろう? と思ったら、さまざまな社会課題を解決するための活動をしている若者たちが集まって作った「みんなの未来を選ぶためのチェックリスト」というサイトが参考になります。誰に投票すれば?と思ったら、自分の選挙区の候補者を調べてみましょう。日本テレビのニュースZEROとJX通信社が作った「2021衆院選候補者アンケート」では、候補者たちの考えを知ることができます。
NPO代表らが立ち上げた「目指せ!投票率75%」というプロジェクトが8月末に行ったアンケート調査では、4万5千人ほどの回答者の多くが女性や若者でした。重視する政策として、ハラスメントのない社会の実現や性暴力被害者への支援と答えた人が最も多かったそうです。弱いものいじめがない社会にしてほしいという切実な要求です。全ての人が大切にされる社会ではなければ、誰も安心して生きていけませんよね。
今年2月の森喜朗氏の女性差別発言が国内外で厳しく批判されたように、これまで日本では当たり前とされてきた性差別的な価値観や、「よくあること」とされてきたジェンダー格差やハラスメントの問題が、世界的には大きな課題になっています。日本は他の先進国やASEAN諸国よりもジェンダー格差の大きな国。コロナ禍では、サービス業で働く非正規雇用の人など、経済的に弱い立場に置かれていた人が最も打撃を受けています。その多くが女性です。もともとあった女性や若者の貧困という問題がコロナ禍で悪化しているにもかかわらず、それが「男の経済」の話にならないと、メディアでも大きな争点として認識されにくいのです。
さて、あなたは投票に行きますか。「これっておかしいと思うんだよね」「こうだったらいいのにね」そんな話を今夜、家族の食卓で話してみましょう。次のランチで後輩とも話してみて。わからないことがあれば、一緒にググってみたりして。投票日は10月31日。月末が忙しい人は、期日前投票もあります。せっかくの意見表明の機会、家族や仲間にも声をかけて、少しでも暮らしやすい社会を作りたいですね。
前回記事「「もう50歳。定年まで何をすればいいか悩ましいよ」と友はぼやく。あなたは50代をどう生きますか?」はこちら>>
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