時代の潮目を迎えた今、自分ごととして考えたい社会問題について小島慶子さんが取り上げます。
55.93%と、戦後3番目に低い投票率だった衆議院選挙が終わって、日本人が大きな変化を望んでいないことがわかりました。投票しなかったあなたは、別に珍しい存在ではありません。ごく平凡な日本人です。さて、投票したあなたは結果として多数派でしたか?少数派でしたか?
今回の選挙期間中にはコロナ対策の他にも、ジェンダーに関する課題が話題になりましたね。でも候補者男女均等法(政治分野における男女共同参画推進法)成立後2回目の国政選挙であるにもかかわらず、女性候補者の割合が半数に達した政党はなく、女性は候補者全体のわずか17.7%でした。衆議院の女性議員の割合も選挙前の10.1%(47人)から減って、全体の9.7%(45人)になりました。これは世界190ヵ国中166位、OECD加盟諸国では最下位の水準とのこと。
今、女性を弾圧しているアフガニスタンのタリバン暫定政権が国際的に厳しく非難されていますが、この選挙結果だけ見れば日本も顕著に女性が排除された社会であると言わざるを得ません。でも、この国では投票という意思表示によって「それでいい」と考えている人が多いことが示されたわけですから、ジェンダー平等を求める人たちはそんな荒野を生きている現実を踏まえて、できることをやるほかありません。
個人ができることは3つ。逃げるか、適応するか、地道に変化を起こすかです。毎度の選挙結果に表れているように、この国で女性として生きるのは相当にしんどいことです。もし今あなたが若く、挑戦するエナジーに溢れているなら、ぜひチャンスを見つけて日本を出てください。なぜなら、今のままでは日本でジェンダー平等が達成されるのには100年以上はかかるだろうからです。寿命が尽きる前に、ここを出るのです。
かつて「日本を出る」というのは、学歴やキャリアを他の日本人と差別化し、アメリカをはじめとした他の先進国のエリートと対等に勝負できる人材になるために、欧米の先進的な教育を受けることを意味しました。これからはもう、そうではありません。日本では食い詰めるかもしれないから、外に出るのです。特に女性は、日本では高校や大学の入試で不利な扱いを受けることがあり、男性よりも収入が低く不安定な働き方をせざるを得ず、セクハラや性暴力の被害者になっても泣き寝入りせざるを得ず、子供を産むと経済的自立やキャリアの継続が難しく、共働きでも家事育児労働は夫の5倍も担わなくてはならず、働き続けても昇進は男性に比べて圧倒的に不利で、ひとり親になれば半数が貧困に陥り、高齢女性の四人に一人は貧困状況にあります。そして、大多数の政治家も財界人も有権者も、ジェンダー平等や女性の人権にはほとんど関心がありません。この社会で女として生きるのは極めて過酷なことなのです。生まれた時からずっと暮らしていると、こんなもんだと思ってしまいますよね。でも世界には、そうではない国もたくさんあります。
だからもしあなたがまだ若く、時間がたくさんあるなら、英語を学んで、世界のどこでも生きていけるようにしてほしい。世界のどこでも、です。どこでもいい、どこかに生きていける場所があるなら、そこでサバイブしてほしい。女性にとって希望のない社会から逃れ、生き延びるために、出るのです。英語は、非英語圏の人間同士が一緒に学んだり仕事をしたりするための共通語。日本よりも賃金が高く、就労のチャンスがあり、ジェンダー平等の達成状況がマシな国であればそれがどこでも、まずは英語を足掛かりにして生きていけるようにしてください。簡単なことではありませんよ。でも、いくら勉強しても、懸命に働いても、男尊女卑の構造が温存され、ジェンダー格差が放置されたままの社会では、努力は報われません。だったらそのエナジーと情熱を、努力が報われる社会で発揮してください。チャンスがあったら、ためらわず、ここから逃げることです。娘がいる人はぜひ、我が子の選択肢の一つとして考えてください。もちろんこれは男子の進路を考える上でも、もはや欠かせない視点だと思います。
二つ目の選択肢として、「適応する」というのがあります。今、日本で暮らしている女性は、これまでもそうしてきたでしょう。快適に適応している人もいれば、我慢して適応している人もいます。どっちにしろ、これからもそれを続けるのです。そして困難は甘受する。女の人生はこういうものだと自分に言い聞かせて、日々の生活の中の小さな幸せを大切にして生きる。それも一つの勇気ある選択です。人によっては、そうする他に選択肢がないことだってあります。生き延びるために環境に適応するのは、生物としては最も自然な方法です。
三つ目は、地道に変化を起こすことです。あなたの周りの人の半数は、選挙に行きませんでした。選挙に行った人の多くも、「今のままでいい」という意思表示をしました。
もし「今のままでもいい」と思わないなら、選挙で投票する以外にも方法があります。あなたの恋人や、友人や、家族や、職場の仲間などの“善良なる現状維持派”の人々が「今よりももっと快適で、ハッピーな社会を作れるかもしれないんだ」と気づく機会を作ることです。ハッピーな人が多い社会は、機嫌の良い人が多い社会。機嫌の良い人が多い社会は、不機嫌な人が多い社会よりもずっと住み心地がいいですよね。いま自分が困っていなくても、他の人が幸せになる変化が起きれば、結果として世の中の幸福の総量が増え、ご機嫌な社会に暮らすことができます。善良なる現状維持派の人たちにはぜひ、そのことに気づいてほしいのです。
変化を望むあなたは、知識が足りない人にはわかりやすい情報を、視野を広げる機会がない人には新鮮な出会いを、ものを考える余裕がない人には一緒に考える仲間を、積極的にシェアしましょう。世の中の空気をちょっとずつ変えることができます。今はSNSという超絶便利な道具があるし、一緒にご飯を食べている時や買い物をしている時なんかに、社会課題をさりげなく話題に出すのもいいですね。BTSの話題から入ったっていい。やり方はいろいろあります。コツコツ、コツコツ。仲間はいます。仲間は増えます。
もしも今あなたがどんよりと孤独を感じているのなら、私たちが過去のどんな時代よりも簡単に「個人でつながる、輪を広げる」ことができる時代に生きていることに希望を持ってください。
そしてもしもあなたが善良なる現状維持派なら、社会のハッピーの総量が増えることを想像してみてください。今しんどい人が幸せになり、この社会に生きていて良かったと考える人が増えたら、社会はより平和で居心地がいいところになります。あなたにはその幸せを生み出す力があることを知ってほしいです。まだまだ先の読めない状況ですが、Life goes on. 一緒に潮目を逞しく生き抜きましょう!
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