時代の潮目を迎えた今、自分ごととして考えたい社会問題について小島慶子さんが取り上げます。

「もう50歳で、会社員人生の先は見えちゃった。定年まで何をすればいいのか悩ましいよ。ゼネラリストを育成するとかで、いろんな部署に異動させられたけど、結局は器用貧乏っていうか、何の専門性もないんだよね。あるのは会社の名前だけ。私って一体、なんなんだろう。この歳になって、何のために働いているのか悩むなんて、遅いよね」
誕生日を迎えた知人がそうぼやきました。

 

あなたは、何のために働いていますか。自身や家族の衣食住を賄うためですか。世帯収入に余裕が欲しいからですか。やり甲斐ですか。惰性ですか。

40歳まで、私の働く理由は「面白いから」「経済的に自立していたいから」「世帯収入に余裕が持てるから」でした。夫が働いていたからです。でも41歳で大黒柱になってから、働く理由が変わりました。働くのは「家族を養うため」。自分にとって仕事って何? なんて悩むこともなくなりました。生きるのにはお金が必要だから、とにかく働く。超シンプルです。ただ、睡眠時間が足りなくて疲れ切った時などには、もう何もかもから降りたいなあと思うこともあります。どんなに辛くても、逃げ場はありません。働く理由がシンプルになったのは良いけれど、人間らしく働くことを考えると、家族を養うにはやはり稼ぎ手は一人よりも二人の方がいいとつくづく思いました。
その経験から、ひとり親支援の重要さを痛感しました。もしも家庭に大人が一人しかいなければ、仕事も家事も育児も全てをこなさねばなりません。中でも女性が一人で働いて子育てする苦労を思うと、制度の不備に憤りを覚えます。


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かつては「一家を養うのが男の甲斐性」と言われ、仕事に人生を捧げた男性がたくさんいました。今でもまだ、そういう考え方は残っていますよね。でも男性だって、経済的な責任を一人で背負い込むよりパートナーと分かち合う方が楽でしょう。実際、若い世代の男性は共働きを希望しています。

だったらやっぱり、男女の賃金格差・就労格差をなくし、安定した立場で働ける人を増やすべきだし、長時間労働がデフォルトではなく、人生のステージに合わせて柔軟に働き方を変えられるようにするべきです。日本では女性が男性の5.5倍も無償労働をしている(OECDによる生活時間の国際比較 2020年)という世界ダントツの家庭内不平等を正すためにも、男性が家事や育児に関わる時間を増やせるよう、制度で後押しすることが急務です。そして、育児や介護に国がもっと手厚い支援をすること。一人で生きようとも二人以上で生きようとも、そしてたとえ人生に思いがけないことが起きようとも(必ず起きます)、安心して暮らせる社会であってほしいです。

働くのは、一義的には生きるため。でも、それだけでいいのかと言ったら違いますよね。仕事は自身の生きる喜びや、誰かの喜びにもなり得るものです。社会をよりハッピーな場所にしたい、より便利で安全な世の中にしたいという思いで働いている人も多いでしょう。やり甲斐は、お金以上に心の健康に影響しているはず。傍目には好条件の会社を辞める知人に、つい「もったいない」と言いたくなることもあるけれど、一度しかない人生のかなりの割合を占める労働時間が、その人にとって「生きているのは楽しい」と思えるものであってほしいと心から思います。

 
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