セリフが苦手な子にはセリフを言わせるのをやめてみた


――子育てにおいてもいいところを伸ばすのは大事だとわかっているのですが、つい苦手なことに目がいきがちで……という方も多いと思います。

セリフを言うのがあまり上手ではない子がいて、どうしようかなと思っていたら、しゃべった後に見せた笑顔がすごくよかったんですよ。それでセリフを言わせるのはやめて、ほかの子の話を聞いて笑顔でずっとうなずいているという設定に変えてみたんですね。本番でその場面を見たお母さんが、「うちの子の本当にいいところをわかってくださって」と、ものすごく喜んでくれて。その子の笑顔が相当好きだったんでしょうね(笑)。僕はそうとは知らずに演出したわけですが、お客さんの反応もとてもよかったですし、お母さんが感じていたことは本当だったんだという証明にもなりました。僕が40年間、爆笑をとるためにはどうしたらいいかをずっと考えて、表情をよく見てチェックしてきたからできたことかもしれません。

三宅裕司さん、70歳。笑いを追求し続けて、いま子供たちに伝えたいこと_img0

 

――コロナ禍で難しいこともありますが、発表の場が増えると子供たちのやる気もさらにアップしそうですね。

自分のひとことで劇場のお客さんがドーッと盛り上がる、あの経験をとにかくしてほしいんですね。逆に、絶対に笑うと思って言ったのにシーンとしてしまう地獄のような経験もしてほしい(笑)。お客さんの前でその経験をすると、自ら一生懸命いろいろなことを考えるようになります。

 


時代に合っていて、なおかつ大衆的な笑いを作ることの意義


――来年のこどもSETでは、今年の本公演の演目『太秦ラプソディ〜看板女優と七人の名無し〜』が上演されるのですか?

時代劇ですから、衣装やかつらなどの関係で予算的にもしかしたらできないかもしれません。でもこれまでうちの劇団では59回本公演をやってきたので、子供たちと一緒にやりたい演目はたくさんあります。昔の台本はその時代のテーマや笑いを描いたものなので、現代におきかえて手直しする大変さはあるかもしれません。

――多様性のある社会のなかで、笑いについてもアップデートされていますよね。

昔はお茶の間に1台テレビがあるだけで、作る方も家族みんなが共有していることを想定した笑いを作っていました。ところが今は、ひとりひとつの画面を持っているわけです。それぞれが好きなものを見るから、国民的なヒット番組もヒット曲も生まれづらい。でも舞台はお金を払って来てくれた人が、みんなで同じものを観るんですよね。ひとつの笑いを劇場で共有したときの相乗効果を、ぜひ多くの人に感じてほしい。子供たちにとっては劇場で見ることも、そこで表現することも、非常に大きな経験になると思います。老若男女がわかる笑いは、とんがった笑いが好きな人には古いものに感じるかもしれない。でもこの時代に合っていて、なおかつ大衆的な笑いを作ることを続けていかないと、何か大事なものが欠けていくのではないか、と。だから僕らがやっているような舞台のエンターテイメントは、必要なものだと思っています。

――子供が好きなお笑いのセンスについていけないこともあります。

うちの娘と息子がよく「面白いものを見つけたよ!」って動画を送ってくるんですよ。それを見て、俺はそんな面白くないと思ったな、なんて議論をしていると、今の時代の笑いの勉強になります。こっちの方が面白い、いや、こっちの方が……とセンスの戦いになると子供は意地になってしまうこともあると思うので、視点の違いを認識して楽しむ姿勢があるといいんじゃないでしょうか。僕はこういう仕事をしていますから悔しくなって、こうしたらもっと面白くなるんじゃない? ってメール送ると、息子から「お、文章で対抗してきた」って返信が届きますけどね(笑)。

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三宅裕司(Yuji Miyake)
1951年5月3日生まれ。明治大学卒業後、6年間の役者修業をへて、1979年、劇団スーパー・エキセントリック・シアターを旗揚げ、座長に。2019年に劇団創立40周年を迎えた。ラジオ『三宅裕司のヤング・パラダイス』テレビ『いい加減にします!』などで人気を博し、映画『サラリーマン専科』などに出演。映画『壬生義士伝』(2003年)ではシリアスな演技が評価され「第27回日本アカデミー賞」優秀助演男優賞を受賞。役者、タレントとして幅広く活躍する。

<Information1>
劇団こどもSET所属メンバーオーディション2021開催決定!

 

「劇団こどもSET」は、劇団スーパー・エキセントリック・シアター(以下:劇団SET)が未来のエンタメ界を担う新たな才能を発掘するべく、三宅裕司所属事務所であるアミューズ全面協力のもと2018年に創立しました。劇団SETのコンセプト、「ミュージカル・アクション・コメディー」を子ども達に余すことなく継承し、子ども達用に書かれた作品ではなく、これまで劇団SETの俳優たちが演じてきた本公演を子ども達だけで上演します!

そして、2021年度新規所属メンバーオーディションの開催が決定しました‼
合格者は劇団こどもSETの所属となり、レギュラーレッスン(有料)を受講していただきます。

【応募締め切り】2021年11月29日(月)必着
【オーディション】2021年12月5日(日)

詳細はこちらから>>

<Information2>
劇団スーパー・エキセントリック・シアター
第59回本公演 ミュージカル・アクション・コメディー
「太秦ラプソディ〜看板女優と七人の名無し〜」

三宅裕司さん、70歳。笑いを追求し続けて、いま子供たちに伝えたいこと_img4

 


■脚本 吉高寿男 ■演出 三宅裕司
■出演 三宅裕司 小倉久寛 劇団スーパー・エキセントリック・シアター
■日程・会場:サンシャイン劇場 2021年10月22日(金)~11月7日(日)◎全18公演

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撮影/Junko Yokoyama ( Lorimer management+)
取材・文/細谷美香
構成/川端里恵