丹羽 「ここまで悔しがって泣くということは、この子は将棋がものすごく好きなんだ」と、藤井さんのことを理解して、気持ちを尊重してくれていたんですね。「子どもが自分自身で行動する」ことを、お母さんやご家族は、藤井さんの子育てで大切にしてきたんじゃないかな。お父さんも、あまり口は出さないタイプでしたか? 「お前、メソメソするな」などと叱られたことはありますか?

藤井 まったくなかったです。父も見守ってくれていました。

 

丹羽 お父さんもお母さんも、素晴らしいですね。好きなだけ将棋ができる環境も、作ってもらっていたということですね。

藤井 はい、それがやはり大きかったかなと思います。例えば、自分ではあまり覚えていないんですが、幼稚園の頃に少しピアノを習っていました。でも僕はピアノにはそれほど夢中にならず、とにかく将棋が好きでした。母が言うには、欲しがるものといえばおもちゃやテレビゲームではなく将棋の本だし、いつでもどこでも将棋をやりたがっていたそうです。そんな僕を見て、母は「もう他のことはやらなくてもいいのかな」とピアノをやめさせ、将棋だけをさせることにしたようです。両親はすごく環境を整えてくれて、僕が出たい将棋大会などにも、あちこちと連れていってくれました。

 

丹羽 好きな将棋を思う存分やらせてくれて、藤井さんはご両親に感謝していたと思いますけど、「だから勝たなきゃ」などとは思っていましたか?

藤井 「勝たなきゃ」という気持ちはそんなになかったです。むしろ「負けたくない」気持ちのほうが強かったと思います。負けたときは、いつも悔しかったので。

丹羽 負けて悔しくない人はいないけれど、その悔しさが、どれくらい大きいかは人によって違いますよね。僕も「負けてたまるか」という気持ち、そして強いものや理不尽なことに対する反骨心をずっと持っているし、おそらく藤井さんもそうだと思います。