小説現代長編新人賞を受賞しデビュー、“依存”を描いた最新刊『燃える息』も注目を集めるフランス在住の作家・パリュスあや子さん。ミモレ書き下ろし連載小説の第2弾がスタート! パリに移り住み、フランス人の彼と事実婚を選んだ
パリ北東部の十九区に暮らす
「ベルヴィル・トーフ」(2)
三つ上の兄曰く、我が家の両親は「仮面夫婦」。
私が中学生の頃からだろうか。家族四人で食卓を囲んでも、休日に出かけても、妙に白々しい空気が流れるようになった。高校生になれば、母はあからさまに父の悪口を言ったし、父は態度で示した。
でも「子供のため」に別れない――両親から言外にそう責められているようで苦しかった。
大学生になり、母に思い切って「別れたら」と提言した。でも「そう簡単なことじゃない」と呆れられて終わった。
結局「子供のため」なんて偽善ぶった建前で、本音は「自分のため」。不平不満を述べたてながら「家族という型は生活のための器。愛は必要ない」と平然と言ってのける母を憎みさえした。
――私は絶対結婚なんてしない。
いつからかそう決めていた。
結婚で縛られなきゃ一緒にいられない関係なんて、それを解消すれば崩れ去る生活なんて、虚しい。好きだから一緒にいる。それ以上なにが必要ある?
――私は相手に寄りかからないで生きていく。
でもカンタンと出会い、「好きだから一緒にいる」ためにはどちらかが居住国を変えなければならなかったし、日本語が話せず、日本文化に詳しくもないカンタンの立場を考えれば、最低限の会話ができフランスの暮らしも経験している私がフランスに渡ることになったのは自然な流れだった。そして外国で暮らすためには、滞在許可証も必要になる。
一番簡単な解決方法は「結婚」して「配偶者ビザ」をもらうこと。
だけどカンタンの祖父母も、両親も、兄まで離婚している。
お互い結婚神話を信じておらず、「PACS」でも条件をクリアすればビザがもらえることがわかり、そこに落ち着いたのは必然ともいえた。
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