だけど日本にいる両親は、馴染みのない「事実婚」に首をひねった。
「ずっと一緒にいるつもりなら結婚すればいいじゃない。別れる前提みたいで心配よ」
母は未だに「結婚すれば安泰」と信じ込んでいるらしい。
「外国で暮らすのは相当な勇気と覚悟が必要なのに、それを事実婚なんて中途半端にしか責任取れない男なんて信用ならん」
と、父も憤慨した。
「好きにすれば。後で泣きを見ても知らないけど」
兄はいつもの無関心。
家族の反応は大方予想していた。別に瞳をうるませて「おめでとう!」って抱きしめてほしかったわけじゃないけれど、祝福されない門出というのは予想以上に寂しいもので、北風の吹くなか身を包むものもなく放り出された心地がした。
親族からも「外国かぶれ」と冷ややかな目で見られているのをひしひし感じるなか、たった一人、心から応援してくれたのが母方の祖母だった。
「家族の形は様々なんだから、祐希が幸せなのが、一番大切だよ」
私が親族で「大好き」と心から言えるのは、この人だけ。いつも優しいおばあちゃん。私の最大の理解者。
祖母は祖父に先立たれ、もう十年以上一人暮らしをしていた。だけど身体も弱ってきて介護の手が必要になり、住み慣れた古い一軒家を処分して昨年から施設に移った。
私は渡仏してから六年、毎年一度は帰国している。でも昨年だけはコロナで帰国が叶わず、祖母の面会もできていない。こまめに連絡してはいるけれど、最近は体調を崩し気味で心配だ。
「に゛ゃぁあ」
コネコが寝室に侵入してきて、図太い声を発した。足で追っ払おうとすると、ベッドのうえに飛び上がり、丸くなってしまった。
このデブ猫め……忌々しく思いつつ、存在感のありすぎるコネコがちょっとおもしろいので、写真を撮って祖母に送る。
<体調はどう? こちらは突然の来客が! マルゴとマルゴの猫です。パートナーと喧嘩はしょっちゅうだけど、家出レベルは珍しい。一波乱ありそうな予感!?>
文章化して茶化してみると、少しだけ気持ちが晴れた。
コネコは太りすぎなのか、ぶぶぶ……と鼾をかきながら寝てしまった。マルゴとパスカルが今回どんな激しい喧嘩を繰り広げたのか知らないが、コネコにしたらようやく静かになったとホッとしているのかも――
ちょっぴり同情心が湧いて、指先で頭を撫でてやった。
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