「ワインを交わした瞬間に、あぁこの人と恋に落ちるなってわかった」

常に大人の余裕を漂わすパスカルが、ある時マルゴとの出会いを少女みたいにはにかんで語り、私はキュンとしてしまった。

マルゴは「パスカルは理屈っぽい」と口を尖らすこともあるけれど、そんな女性が理屈ではない力で、正反対の性格にすら思えるマルゴと結ばれたという事実に感動したものだ。

「家族はホモセクシュアルに理解は示してくれるようになったけど、そこまで」

パスカルは、そうつぶやいてほほ笑んでいたこともあった。直接詳しく聞いたことはないものの、割と保守的な家庭だったらしく、カミングアウトまでには想像を絶する苦難があったのだろう。

だから昔からレズビアンである自分を肯定しているマルゴも、開けっ広げで裏表のないカンタン一家も、理想的で心地よかったのかもしれない。

 

PACSは「同性または異性の成人二名による、共同生活を結ぶために締結される契約」として1999年に制定された。

 

フランスは2013年から同性婚が認められたが、PACS制定当時はまだ同性カップルには法的な権利が与えられておらず、PACSの主な狙いは同性カップルの身分を保障するためだったといえる。

でも当初の狙いとは異なり、現在ではPACS契約のほとんどが異性間だ。同性婚が法制化されてから、PACSと結婚の割合は、異性間でも同性間でもおおよそ半々らしい。

「PACSって養子縁組でも利点があるの?」

「いや、PACSはあくまで共同生活のためのもので、パートナーの扶養義務とか連帯責任はあるけど、同性異性関係なく共同養子縁組はできない」

 皿を洗いながら、台所でひそひそとカンタンと話し合う。

「けど例えば、PACSしてる友達のゲイカップルは、相手が養子をもらって、その子と三人で暮らしてる。だから親権はどちらか一方になってしまうけど、その子を一緒に育てていくPACSカップル自体は珍しくないと思うよ」

 カンタンはその友達の写真を見せてくれた。小柄ながら屈強な体つきの黒人男性、四角い顔で背の高い白人男性、そしてふっくらした頬と黒髪が愛らしいアジア系の女の子……

「友達はアフリカ系二世、相手はロシアのハーフ、子供は韓国人だって」

 フランスは外国から養子を迎える「国際養子縁組」が多いという記事を読んだことがある。近年は減少傾向とも書かれていたけれど、実際に家族写真を見せられると少し混乱した。

でも三人とも満ち足りたような、こちらまで幸せになる笑顔を浮かべている。

「家族の形って、本当に様々だよね……」

思わずつぶやくと、カンタンは私の顔をのぞきこんだ。

「祐希も子供が欲しい?」

「自然にできたら、ね」

皿洗いを終え、私は部屋に引っ込んだ。