「いいわよ、帰ってこなくて」
「……え?」
携帯から発せられた冷徹な言葉に耳を疑う。
「帰ってきたところで、三日間空港近くのホテルで待機になるんでしょ? お葬式は火葬場の空き次第だけど、どうせ間に合わないだろうし」
「どうせって何⁉ おばあちゃんが亡くなったんだよ? 間に合わなくったって帰りたいよ!」
私が怒りに叫ぶと、母も珍しく声を荒らげた。
「間に合わないなら、いつ帰って来たって一緒でしょうが! 自宅待機の間、あんた何するつもり? こっちはね、ただでさえてんてこ舞いなの。次から次に手続きがあるし、人の出入りも多いし、手を合わせに来てくれる方もいるでしょうよ。そんなとき『いま娘がパリから帰ってきてまして』って説明するの? 余計な心配増やさないでよ、いま帰られても迷惑なのッ」
祖母の死の悲しみとは違う、もっと冷たい痛みに身体を刺し貫かれて絶句した。
「祐希がおばあちゃんのこと大好きなのは知ってるし、おばあちゃんも祐希を特別かわいがってた。私だって祐希にここにいてほしいよ。でも状況が許さないの、わかってるでしょ」
また連絡する、といつもの感情を消した声がして、電話が切られた。
私はしゃがみ込んだまま、放心するしかなかった。
帰ることもできない。なにもできない……。
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