そのような中で、高齢者にとって「益より害になることの方が多い薬」というのがあります。これも全てに当てはまるというわけではないので、即座に「この薬は害が多いから飲むな」ということにはなりません。病状によっては、その薬が必要になることもあります。


イブプロフェンは高齢者にはリスクが高い


ここでBeers(ビアーズ)基準(参考文献1)というものを紹介したいと思います。これは多くの医師が高齢者を診療する際に参照する薬のリストです。このBeers基準には、特に高齢者で有害性が有益性を上回ることの多い薬がリストアップされています。

その一覧をみてみると、例えば頭痛薬の「イブプロフェン」が登場します。若い頃には毎日のように安全に使うことのできていたイブプロフェンも、高齢になった時には害になるリスクが高くなるのです。

Beers基準をよくみてみると、次のような説明が書いてあります。

「長期連用を避けること。75歳以上など高リスクの人では消化管出血や胃潰瘍のリスクが増加する。また、高血圧や腎臓の障害を導きうる」

また、イブプロフェンの痛み止めの場合には、代替案が用意できるのもポイントです。イブプロフェンが仮に使えなくとも、アセトアミノフェンと呼ばれる別の痛み止めがあったり、湿布薬のように皮膚から効果を発揮する薬剤もあったりします。こうした薬で「かえがきく」のです。

こういったことから、イブプロフェンのようなNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)と呼ばれる種類の解熱鎮痛薬は高齢者では避けることが好ましいとされています。

 

あるいは、「ベンゾジアゼピン」と呼ばれる種類の睡眠薬も不適切な薬としてリストアップされています。

 

この薬剤について、「高齢者においては(ベンゾジアゼピンに対する)感受性が上がり、代謝は低下している。一般に、ベンゾジアゼピンは認知機能障害、せん妄、転倒、骨折、交通事故のリスクを増加させる」と記載されています。

「若い頃から睡眠薬はよく使ってきたから大丈夫」と言う方もいますが、4時間や5時間で効果が切れるはずであった薬が、年齢とともに半日や1日中効き続けてしまうようになり、これが原因で日中のだるさや眠気を招き、集中力の低下やめまいといった症状につながってしまうこともあります。その結果、転倒して骨折してしまったとしたら大変なことです。