「睡眠美容のすすめ」
寒さが募ってきた冬の夜、みなさんはぐっすり眠っていますか?
「疲れているのに、なかなか寝つけない」、「変な時間に目が覚める」、「眠剤がないと眠れない」、「寝ているはずなのに、どうもスッキリしない」など、睡眠についてのエトセトラの悩みが、私の周りではとても増えています。かくいう私もベッドに横になっても眠れず、目を閉じて布団に潜っても、まんじりともせず夜が明けてしまうことがあります。そんな日が続くと、身体はだる重〜。頭の回転は鈍く、肌の調子もいいわけない……。「こんな負の連鎖を断ち切りたい!」、という方に紹介したいのが、岩本麻奈先生の新刊『睡眠美容のすすめ』です。
麻奈先生は、1997年にフランスに渡り、日本とフランスを行き来しながら、抗加齢医学、自然薬草医療、予防医学などを学んでこられた皮膚科専門医。女性の美と健康を幅広くサポートしています。テーマは「センシュアルエイジング」。これは麻奈先生が20年に及ぶパリ生活でフランスマダムたちから学んだ美学。『若さ=美しさ』といった外見にばかりとらわれない、感性を研ぎ澄まし、内側から女性としての魅力を成熟させていく生き方です。いくつになっても女性でもあることを楽しむために、麻奈先生が今一番大事だと考えているのが「睡眠」。
「年をとるのは自然なことですが、いつまでも若く美しくいるために、不自然な美容整形や、過剰なダイエットに勤しんだり、さらに自分磨きのための自己啓発の勉強や社会活動など、あれもこれもと寝る間を惜しんで頑張っている女性が多いです。気持ちはわかります。けれどもそれでは逆にエイジングを加速させてしまいます。オンはアクセル全開でも、体と心、そして脳を休ませる睡眠(オフ)も大切。
今の世の中、誰もが交感神経が亢進しすぎて、血走っているように見えます。だからこそ、副交感神経をどれだけ活性化させるかで、その人の幸福度が変わり、ひいては周囲を、社会を、明るくします。何より質の良い眠りは、どんな美容液より美肌には効果的! 睡眠こそが美と健康の根源なのです」(麻奈先生)
麻奈先生に教えて頂いたデータがあります。経済協力開発機構(OECD)が2018年に実施した睡眠時間の国際調査では、日本人はダントツで最下位。しかも、多くの国と違って日本では男性より女性の睡眠時間が短いのが特徴でした。加盟国の平均睡眠時間が8時間27分に比べて、日本女性は7時間15分と1時間以上も短い。日本人の年代別の睡眠時間の調査では40代〜50代の女性についてはさらに1時間程短かったのです。
「いったいなんでこんなことになっている?!と、正直驚きました。日本人女性が眠っていないなんて、本当にもったいない。どんなに美容に気を遣っていても、睡眠不足では、成長ホルモンが充分に分泌されず、肌の老化を招き、髪や爪にも悪影響が及びます。
眠れない原因は主にふたつ。痛みや痒みなど、身体的不調がある場合。もうひとつは眠りたいけど、眠れないなんらかの理由を抱えている場合です。40代、50代の女性は、家事や仕事、子供の世話に親の介護など負担が大きい年代。忙しさに加えてストレスが多く、更年期と重なれば、より情緒不安定になりがち。リラックスする間もなく、交感神経ばかり高まり、体は疲れているのになかなか眠れなくなってしまいます。
また、日本では寝る間を惜しんで頑張ることが美徳とされている文化的な背景があります。
私もかつてショートスリーパーを自負していた時がありました。睡眠が足りていないと、疲労が持ち越され、脳の老廃物が蓄積して、考えられないミスをすることがあるのです。精神的なゆとりがなくなれば、周りの人に対しても思いやりをもって接することができず、重要な局面での判断ミスもあったかもしれない……。今思うといいことはなかったと後悔しています」(麻奈先生)
睡眠の質が低下すると、ホルモンバランスが崩れ、エイジングが加速。集中力の低下、肌荒れや乾燥、太りやすい、疲れが抜けないなどとデメリットだらけということを、改めて思い知らされます。重度になると、将来的に認知症、がんのリスクまで増してしまいます。
2016年11月に発表された米国のシンクタンクの調査研究では、日本人の睡眠不足による国家レベルの経済的損失は約15兆円にも達するそうです。
厚生労働省による『国民健康・栄養調査』(2015年)では、睡眠不足は死亡や健康リスクを上昇させ、仕事の生産性を低下させると報告されています。
「世界一眠っていない日本人女性ですが、平均寿命は87.74歳(2021年7月)と世界ナンバーワン。今より眠れるようになれば、健康寿命が延び、より美しく幸せに長生きできるに違いありません。女性が輝けば、日本はもっと豊かになっていくはずです」(麻奈先生)
本書には麻奈先生が睡眠美容のため実践していることやぐっすり眠るためのヒントがぎっしり。たとえば、重炭酸タブレットでの入浴法(ネットで簡単に手に入ります)。寝る1時間から1時間半前に温め(40度以下)の湯船に15分以上ゆっくり浸かり、深部体温をしっかり上げる。体温が下がってきた頃にスーっと眠気が訪れます。
今注目されている「CBD(カンナビジオール)」についても興味深いです。CBDは大麻草に含まれる生理活性成分のひとつ。ルーツを聞くと、大麻?!と驚く方もいらっしゃるかもしれませんが、こちらは(種と成熟した茎から抽出されたものであれば)れっきとした合法成分。CBDはWHOが効果を認めていて、海外では小児てんかんの医薬品として認可されるなどメジャーな存在。海外のアスリートも痛みや睡眠の改善に使用していますが、日本ではまだほとんど知られていません。それゆえ、ネット上では間違った情報も多く流布されているのです。
CBDは、不安・神経障害・筋肉痛、さらに睡眠状態を改善するといった、さまざまな効果が報告されています。人間をはじめ脊椎動物のいろいろな機能をコントロールしている元々体が持っている「エンド・カンナビノイドシステム(ECS)」という恒常性機能(ホメオスターシス)の中核にCBDがアプローチしていると考えられ、詳しい機序は研究が進行中です。
睡眠美容のノウハウを実践しても、どうしても眠れない場合は、麻奈先生の『睡眠美容外来』へ足を運んでみるのも手。まずは細かなカウンセリングで眠れない原因を探ります。時には血液や栄養学的検査も実施。その上で、食事やエクササイズやお風呂など、個々の生活習慣の改善のアドバイスとCBDオイルやバームの適切な使い方の指導を受けることができます。CBDは体のさまざまな部分の神経をリラックスへ導くので、五十肩や目の痙攣が改善されたり、眠りに悩む幅広い年代の男女や、時に神経質なペット犬までもがぐっすり眠れるようになったと、笑顔になって卒業していくそう。
最後に麻奈先生からのアドバイス。
「布団の中で30分経っても眠れなかったら、潔く布団から出て、読書したり、外気に当たったり、他のことをしましょう。ベッドは眠るための場所という意識を脳にすり込むことが大事です」(麻奈先生)
眠れない夜に布団の中でスマホをいじってイイネを数えるなんてもってのほか。イイネよりイイ眠りが美と健康への近道です。
『睡眠美容のすすめ―お風呂のチカラでスリーピングビューティー』
岩本 麻奈(著)
「眠り」は百薬の長。睡眠、自律神経、血行を良くすることが美への近道!すべてにアプローチする方法は入浴にあり。
目次(「BOOK」データベースより)
1 スキンケアよりもはるかに大事なこととは?―「眠り」は百薬の長(世界一眠り貧者の日本女性;睡眠の「質」が低下すると細胞が老化する ほか)
2 あらゆる不調が改善!―睡眠美容の12大メリット(成長ホルモンのシャワーでアンチエイジング;毛細血管を蘇らせ、肌や髪、爪までも美しく、体臭の悩みも改善 ほか)
3 最も手軽な睡眠美容はお風呂に浸かるだけ!ぐっすり眠れる「重炭酸温浴法」(40度以下のぬるめのお風呂に15分;入浴剤は「成分」に注目して選ぶ ほか)
4 熟睡を呼ぶ!睡眠美容的ライフスタイル(太陽の光を浴びると、目覚めすっきり、夜も快眠!;朝食で体内時計をリセットする ほか)
取材・文/熊本美加
岩本麻奈 (イワモトマナ)
皮膚科専門医。東京女子医科大学卒、慶應義塾大学医学部皮膚科にて研修。のち20年におよぶパリ生活中に、抗老化医学、自然薬草療法、予防医学等を学ぶ。その間EU圏の大手製薬会社やコスメ企業のアドバイザーを兼任し、日本では大手通販会社でのコスメブランド開発に従事する。直近3年はプノンペンに在住し、アセアン諸国で美容セミナーを開催。2020年春に帰国し、現在は複数のクリニックに勤務し、最先端再生医療や美容医療に携わる。著作多数。
2021年夏より。ナチュラル・ハーモニークリニック表参道、グランプロクリニック銀座に「睡眠美容外来」を創設し、健康や美容のためにいかに睡眠が重要かを啓発している。日本臨床カンナビノイド学会認定登録医、日本温泉気候物理医学会会員、日本睡眠学会会員。ナチュラル・ハーモニークリニック表参道 副院長、グランプロクリニック銀座 理事。