BTSのリーダー・RMが推薦したことにより、韓国で大ヒットとなったエッセイ『それぞれのうしろ姿』(アン・ギュチョル著、桑畑優香訳 辰巳出版/&books)。今年5月28日にRMがARMY(BTSのファン)のためのオフィシャルコミュニティ「Weverse」に、本書の一部「植物の時間」を撮影した2枚の写真をコメントなしでシェアし、瞬く間にARMYが注目。韓国の大手書店・教保文庫での週間販売数が250倍に激増し、たちまち完売となりました。
『それぞれのうしろ姿』は、インスタレーションを多く手がける現代美術家のアン・ギュチョルさんが韓国の文芸誌に連載した中から厳選した67編のエッセイとイラストをまとめたもの。花木やボール、ねじ釘やホコリなど、普段の生活の中では見過ごされがちなあらゆる事物を通じて綴られる言葉は、読者の思考を解きほぐすと同時に、前向きな気づきを与えてくれます。
日本のARMYの間でも話題になっていた『それぞれのうしろ姿』が、日本でも満を持して発売されました。日本語版出版を記念して、著者のアン・ギュチョルさんのインタビューをお届けします。ニューヨークの国連本部で流暢な英語スピーチを披露し、度々美術館や展覧会を訪れその様子をツイートするなど、BTSきっての知性派であるRM。そんなRMとアンさんとの間に繰り広げられた知られざるやり取りをはじめ、本インタビューでしか読めないエピソード満載です。
個展にRMが来場、『それぞれのうしろ姿』にサインを求められた
——『それぞれのうしろ姿』はRMの写真シェアによって日本に紹介され、日本にいる私たちはその存在を知り、日本でも刊行されました。それはまるでアンさんが本文中「風になる方法」で言及されていたように、RMが種を運ぶ「風」の役目を果たしたように思えます。まさに「書物」も静物ではないようです。種に対する「風」が果たす役割は、文化、芸術におけるその紹介者として活動しているBTSの姿とも重なります。このことをどう感じられたでしょうか。
アン・ギュチョルさん(以下アン):まったく予想外のことでした。5月に釜山国際ギャラリーで開いた個展に、RMが来ました。意外にもRMが私に本を差し出しサインをしてほしいと言うので、何気なくサインをしたんです。すっかり忘れていた数週間後、出版社に本の注文が殺到していると聞きました。『それぞれのうしろ姿』の最後のエッセイ「はがき」で、自分の文章を「宛先のないガラス瓶に入った手紙」にたとえましたが、突然多くの読者から注目を浴びるようになったのが信じられません。私が書いた文章の数々が見知らぬ遠くの誰かに共感と癒しを与えるのは、著者としてこの上ない喜びであり幸運です。読者の中には、私の文章から得た小さな種から生まれた新しい木を育てる方もいるかもしれません。それと同じように、私も誰かから得た種で、この文章を育んだのです。RMには感謝の挨拶もまだできていませんが、多忙なRMが、文化芸術の真摯な仲介者として自分の時間を割くのは、本当にすごいことだと思います。
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