両作に共通する“届かない手”が伝える愛の世界

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ドラマにありがちなのが、設定からして、主人公はこの人とくっつくであろう、という登場人物と、割と早い段階で、アクシデントで男性が女性に覆いかぶさる格好になったり、キスをしたり、強めのハグをする、という展開です。なぜ惹かれ合ったか、なぜその人物を好きになったのか、という理由や流れがはっきりとあるわけではなく、雑な言い方をすると、“お決まり”的にくっつく感じ。

 

 
『Nのために』では、希美と成瀬はキスもしなければ熱い抱擁を交わすこともありません。しかし、随所に相手を思い、大切にする描写がちりばめられています。
 
象徴的なふたつのシーンがあります。
希美が父親と愛人が住む家を燃やそうと、オイルを家に撒きます。そのとき、希美の手を掴んで止めたのが成瀬です。泣きながら倒れ込む希美に、成瀬はこんな言葉をかけます。
「苦しいなら、助けるけん。どうしてほしい。おれに何ができる」
うずくまる希美を前に、成瀬は一瞬希美の身体に触れようと手を伸ばしますが、実際は触れないのです。

スカイローズガーデンの殺人事件後、疎遠になっていた希美と成瀬が再会するとき、希美は胃がんを患い、長くは生きられない身で、身辺整理をしてひとりホスピスに入ることを決意しています。そんな希美に、成瀬がかけた言葉は、「好きだ」でも、「愛してる」でも、「結婚しよう」でもありません。
「ただ、一緒におらん?」
なのです。しかも、キスや抱擁をするでもなく、成瀬はそっと、マフラーを希美にかけるのです。
 
最後の最後まで、ふたりは決定的に恋人関係になるわけでありません。しかし、恋愛関係にならずとも、互いを思い合い、大切にしていることは全体を通して痛いほどに伝わってきます。
 
一方『最愛』では、白川郷にいるときに、梨央と大輝は両思いになります。しかし、その後離ればなれなり、恋人として過ごすことなく、15年後に再会します。梨央と大輝が病院のベンチで座るシーンでは、今にも手が動き出しそうなのに、結局手を握ったりということにはなりませんでした。梨央が苦境に立たされ、大輝に抱きついたときも、大輝は抱き返すことができません。7話では、ふたりきりで不意に顔が近づく場面もありますが、キスシーンにはならず、ふたりは笑い合って終わりました。

ふたつの物語の届かない手は、もどかしく切ない描写ですが、逆に相手を大切に思う気持ちが伝わってきます。