サスペンスドラマは、事件の犯人が最後まで分からないのが定番です。「この人が黒幕なんじゃない?」「いや、さすがにあからさま過ぎるか……」と言いながら、“考察”を楽しむ。
でも、『最愛』(TBS系)はちがいます。連続殺人事件の鍵を握る”15年前の失踪事件”の謎は、第5話でほとんど明らかになっている。なのに、なぜか引き込まれてしまうんです。サスペンスにとって、いちばん重要である“真相”を早々に明かす技法。そこから、人間模様を描いていく。『最愛』は、サスペンスドラマの新たな形を開拓した作品とも言えるのではないでしょうか。
もちろん、まだベールに包まれている部分もたくさんあります。たとえば、第7話ラストで、フリーライターのしおり(田中みな実)が突然の死を迎えた真相。他殺なのか、はたまた自殺なのか。他殺だとすれば、誰が殺したのか––––––。単純に考えると、彼女に弱みを握られている後藤(及川光博)という線が妥当です。ただ、後藤は自らの手を汚すタイプではない。だとしたら……と、“考察”を楽しみたくなりますが、『最愛』に引き込まれる理由は、ここではありません。すべての“謎”が明らかになったとしても、私はこの作品を見入ってしまうと思うから。
『最愛』のキャッチコピーは、<真相は、愛で消える。><全ては、愛するがゆえに。>。この通り、真相を暴いていくというよりも、真相を愛で消していく人々の葛藤に焦点を置いています。例を挙げると、梨央(吉高由里子)と優(高橋文哉)の父・達雄(光石研)は、“最愛“の息子をかばうため、優が犯した罪を「自分がやった」と自供するムービーを残して亡くなってしまう。さらに、梨央の初恋相手の大輝(松下洸平)は、加害者の優に同情しすぎたあまり、生活安全課への異動を余儀なくされました。それでも大輝は、後悔していないのかもしれません。彼にとっての“最愛”は、きっと梨央の存在だから。
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