料理の師匠に言われた「全部ひとりで抱え込むな」。子育てもそうだと思う

 

――まさに自由ですね! でもちょっと「家族に文句言われるのでは?」と考えてしまいそうです。

小さいお子さんは別ですけど、文句を言われたら「じゃあ自分でやれば?」でいいんですよ。実際、僕のお袋もそうでした。中学生くらいになると母親に色々言うようになるじゃないですか。ある日の晩飯におでんが出てきて、「おでんはおかずにならねえんだよ!」って文句を言ったら「うるさい男だね! イヤなら食べんじゃないよ!」って一蹴されましたから(笑)。だからうちも、メインは僕が作るけど、前菜は娘たちが食べたいものを作らせたり、パスタパスタうるさい息子には、そんなに食べたいなら勝手に茹でろとかね。なんだかすごく面白かったですよ、家族で台所に立つのも。

「男子厨房に入らず」な男性の場合、入門編に「カレー」を推す笠原さん。「スパイスを揃えるだけでも単純にワクワクするでしょ? 男性はホビー感覚でできる料理から始めるといいんですよ」。燻製やぬか漬けなどもホビー感覚を刺激できる料理だそう!(『笠原将弘のまかないみたいな自宅飯』より)

 

――ご家族の仲の良さが伝わってきます。ですが、2012年に奥様をがんで亡くされてからというもの、子育ても大変だったのではないでしょうか。

子どもたちが小さい頃はもう仕方ないというか。ある程度大きくなったら、できることはどんどんやらせていましたね。小学生くらいからは上履きなんかも自分で洗わせていたし。あとは、幸いなことに僕は頼れる人がいて、カミさんのお姉さんが一緒に住んでくれて、洗濯や掃除なんかを手伝ってくれたんです。だから僕も、仕事に打ち込むことができたというのはありますね。父親としては、悪いことをした子どもたちを厳しく叱ること、ディズニーランドとかにみんなを遊びに連れて行くこと。そういうことが主な役割だと思ってやっていました。

――自分だけで全てこなすのは無理、ということをわかっていたと言いますか……。

料理の仕事でも、師匠からよく「全部ひとりで抱え込むな」って言われていたんです。忙しかったら職場で手が空いている人を探して、手伝ってもらえって。それと、絶対に向き不向きがあるからね。魚をおろすのが得意な人もいれば、包丁捌きは未熟だけど味付けが得意な人もいる。全部上手くやろうとしたって、人間には限界があるんです。いくらやる気があってもね。だから、店に新人スタッフが入ってきた時も、1日1個ずつできることが増えていけばいいと思っていて。仕事や子育てはもちろん、世の中の全てに対してそんなふうに思っているかもしれません。

――全方位で100点を目指そうとすると、どうしても苦しくなりますよね。

僕、元プロ野球選手のイチローさんが大好きなんですけど、以前お店に来てくださった時に興味深いお話をお聞きして。イチローさんって、鬼のような練習量をこなしているイメージがあるじゃないですか。いやいや、そんなことないんだと。「毎日“これくらいやりたいな”と体が欲する練習を365日やるんです」っておっしゃっていたんですよね。僕にはそれがすごく響いた。やる気がある時に100点を出そうと気張っても、3日坊主で終わってしまう。だから「毎日やりたくなるぐらいのことを、毎日やる」。これってすごく偉大なことだなと思うし、今の僕のモットーでもあるんです。