安田顕さん、小池栄子さんが夫婦を演じる映画『私はいったい、何と闘っているのか』は、優しさゆえにいつも貧乏くじを引く夫・春男と、ある日彼が一目ぼれした律子たち夫婦と子供たちの日常を描くホームドラマ。映画が独特なのは、春男のセリフの多くが心の声(モノローグ)であること。思っていることの半分も言えない、考えていることの半分もうまくいかない、伝えたいことの半分も伝えられないー-そんな不器用極まりない春男は、10年前であれば「映画の主人公」たりえなかったキャラクターのように思えます。それでも家族に愛される春男のあり方からは、今の時代の「家族の幸せ」が見えてくるかもしれません。
小池さんの視野の広さに感動する(安田)
ヤスケンさんは全部受けとめてくれる(小池)
二度目の共演ですが、俳優としてのお互いをどんな風に見てますか?
安田顕さん(以下、安田):撮影の初日かな? 小池さん演じる律子が若い時の場面で、公園のベンチで涙ぐみながらしゃべるシーンがあったでしょ。
小池栄子さん(以下、小池):あったあった。
安田:向かいに座る私の向こう側にグラウンドがあって、スタンバイの時に小池さんが「ちょっとあの人見てくださいよ」って。犬を連れた男性が、リードを上から引っ張りすぎてて。小池さん、愛犬家だから「ありえない」って。
小池:犬が苦しそうだったんですよ。
安田:そのあと本番をやったんだけど、カットの声がかかった途端に「ちょっと今の見た?」って。照明さんがいる、カメラがいる、監督はこう思ってる、それを考えながら演技して、その間も犬が目に入ってる。そういう小池さんの視界の広さみたいなものが、すごく好きなんですよね。
小池:俳優として、って聞かれてるのに、役者論でも何でもないじゃないですか(笑)。
安田:台本にない「……」を入れてくる役者さんもいるかもしれないけど、小池さんはそういうのが一切ない。ものすごくさらっとしてるんですよ。おおらかっていうか。
小池:こういうふうに、全部受け止めてくださるヤスケンさんが好きです。私はおおざっぱなんです。集中力がぜんぜんない。ヤスケンさんは、なんかスイッチがある感じ。役をちゃんと構築されていて、でも現場で別のことを求められても「わかりました。そっちですね」ってささっと切り替えられるのもすごいですよね。
ほぼ一人芝居……これぞ役者の腕だと嫉妬しました(小池)
春男は「裏垢」もないし「拡散」もしないタイプ(安田)
安田さんのセリフは、大半が妄想を言葉にした心の声(モノローグ)でしたね。
小池:試写を見てヤスケンさんだからできたんだなって思いました。これだけモノローグが多いと、普通の役者さんなら怖くてできないし、見ているほうダレてくると思うんです。でも表情豊かで、だんだんとモノローグが口に出している言葉のように聞こえてきて、その心情に引き込まれて……これぞ役者の腕だなあと。嫉妬しましたよ。
安田:脚本を読んだときは「2ショットはどうやって? 引きの時はどうするの?」って想像がつかなかったです。当初は前もって録音したモノローグを現場で流しながら撮影したんですけど、合わせた時にそれがしっくりこない。結局、僕が今思ってることをしゃべって、カメラさんとか照明さんとかに「今、そう考えてるのね」って把握してもらい、モノローグで生まれる間をそれぞれに処理してもらうしかなかったですよね。
小池:ほぼ一人芝居ですよね。
安田:やりにくかったんじゃないですか。
小池:まあでも律子は「パパはどうせいっつも自分の中でしゃべってる人なんだな」ってわかってる設定だったので、私は見てるだけ。あとはヤスケンさんがやってくれるっていう感じに頼りにしていました。
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