“予約の取れない人気店”として知られる、恵比寿の日本料理店「賛否両論」。多くの飲食店と同じようにコロナ禍では苦境に立たされたものの、店主・笠原将弘さんは「おかげさまで、年内の予約は埋まりました」と安堵した表情を覗かせます。ようやく戻ってきた、街を行き交う人々の賑わい。それに比例して厨房で忙しい日々を送る笠原さんですが、このたび上梓したレシピ本では、コロナ禍に過ごした「おうち時間」に思いを馳せます。笠原家の家庭料理を紹介する『笠原将弘のまかないみたいな自宅飯』に隠された家族の風景と、妻亡き後にひとりの父親として子育てとどう向き合ってきたのか、インタビューでお聞きしました。

【笠原将弘さん】料理も子ども参加型!“カミさん”から託された「家族の食卓」を笑顔にする秘訣_img0
 

笠原将弘(かさはら・まさひろ)さん
東京・恵比寿にある日本料理店「賛否両論」店主。1972年東京生まれ。高校卒業後「正月屋吉兆」で9年間修業したのち、父の死をきっかけに武蔵小山にある実家の焼き鳥店「とり将」を継ぐ。2004年に自身の店「賛否両論」をオープンし、瞬く間に予約の取れない人気店として話題になる。直営店として2013年に名古屋店、2019年に金沢店を開店。手がける料理レシピ本の人気も高く、著書累計は127万部を超える。


「サザエさんの食卓」じゃなくていい。“家飯”はルール無用!


――お子さんは、娘さん2人と息子さんがいらっしゃるとのことですが、笠原さんは普段からお家でも料理していたんですか?

 

ほぼしていなかったんですよ。子どもたちもみんな一緒に住んでいるけど、長女も次女も成人していて、長男は高校2年生。もう大きいですからね。店がある日はどうしても帰りが夜遅くなるから、みんな寝ちゃってますし。だから晩飯は外で飲んで帰るか、家で本を読みながら晩酌することがほとんどでした。休日も、僕も休みの日くらいは外で食べたいし、子どもたちも「焼肉行くか」と言うと喜ぶしね。

――そうすると、家の台所に立つきっかけは完全にコロナ禍の「ステイホーム」だったんですね。

そうですね。こんなに家に居たのは10年ぶりぐらいかな。家でゴロゴロしてるのが苦手だから、休日は用事がなくても出かけちゃうし。ただ、今回はふらっと外に食べに行くこともできない。だったら自宅でご飯でも作るか、と思って作り始めたんです。今回のレシピ本でも紹介していますけど、本業の和食だけじゃなく、自分の店では作れない中華料理とか、タイ料理なんかも再現してみたりね。そうすると、子どもたちから「次はあれ作って!」ってリクエストされるようになって。こういうやりとりは、コロナ禍だからこそ持ち得た時間かもしれませんね。

――久々の家族の食卓で、お子さんたちに意外な発見はありましたか?

長女と次女が酒飲みになっていたということですね(笑)。当たり前だけど、昔はご飯を食べておしまい、だったのが、まずはつまみから始めるとかね。長女はこういうお酒が好きで、次女は渋い珍味が好きとか、高校生の長男はとにかくパスタパスタ言ってたりね。

――父親と晩酌する機会なんてお正月くらいしかなかったので、なんだか羨ましいです。どんな会話をされていたのでしょうか。

おかげさまで、みんなもう大人みたいなものだから、対等に仕事の話をすることが多かったかもしれないですね。最近はこんな仕事をしてて、来年はこんなのやるんだよねとか話すと、長女は社会人だから「すごいねえ」って反応してくれたり。長男は今高校2年生だから進路に悩んでいて。こんな仕事が面白いんじゃないの? とか話したりね。次女は学生なんだけど、ある試験の勉強中だから根詰めすぎないように「ま、今のご時世こういう生き方もあるんじゃない?」みたいな。そういう話はいっぱいしましたね。

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【笠原将弘さん】料理も子ども参加型!“カミさん”から託された「家族の食卓」を笑顔にする秘訣_img4

ある日の自宅飯。娘さんふたりはえびチリ派、息子さんはえびマヨ派。ということで、ええい両方作ってしまえ! と笠原さんが作った2品。(『笠原将弘のまかないみたいな自宅飯』より)

――コミュニケーションが多い食卓ですね。毎日のご飯って、食卓に並べた頃にはもうヘトヘト……という方も少なくないと思うのですが、笠原さんは「毎日の食卓」をどうやりくりしていましたか?

家の食卓はルール無用というか、自由でいいんじゃないかと思っていて。「サザエさん」の磯野家みたいに、毎回家族一人ひとりの分を配膳して食べるのも素敵だけれど、うちなんかは酒飲みが多いから「これ全部つまみじゃない?」みたいな日もあるし。晩飯中に普通にスナック菓子を出して食べたりもするしね。箸の持ち方とか、食事中はスマホいじるなとか、行儀が悪いのは怒りますけど。楽しい時間を過ごすのが前提だから、僕が作ったご飯の味付けが物足りなければ、マヨネーズでもなんでも好きなものをかけて食べればいいんです。器だってバラバラで構わないし、コーンフレークなんかラーメンどんぶりで食べてもいい。それが“家飯”じゃないですか。「食べログ」に書かれるわけでもないですしね(笑)。

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恵比寿の「賛否両論」にて、家族の話で柔らかい表情を浮かべる笠原さん
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