時代の潮目を迎えた今、自分ごととして考えたい社会問題について小島慶子さんが取り上げます。

 

見た目を褒められるのは、好きですか。言われて嫌な気持ちはしないでしょう。善意で言ってくれているのもわかりますよね。でも時には「いや、そんなことよりちゃんと話を聞いてほしいんだけど」って言いたくなることはないですか。

 

私の母は、見た目にとても関心のある人です。だから私がテレビ局で働き始めたばかりの頃から今に至るまで、褒め言葉の9割以上は外見に関することです。見た目へのダメ出しも多かったので、子どもの頃から私は人目が怖くてなりませんでした。自分が親になってみて分かったのは、母もまた、見た目のことばかり言われて育った子供だったのだろうということです。おそらく母は、子供の頃は見た目が目立つといじめられ、大人になってからは見た目がきれいだからと注目され、美人でないと見捨てられてしまうという不安と、自分よりもっと美しい人がいるという劣等感とを肥大化させてしまったのでしょう。そして誰も、彼女の話をちゃんと聞いてあげなかったのです。

子供の頃、きっと母には話したいことがたくさんあったはずです。それを誰かにちゃんと聞いてもらえたら、見た目がどうであろうと自分は受け入れられていると感じることができたでしょう。大人になってからは、美人だからと寄ってくる人はいても、あなたの話を聞きたいと彼女に言った人はほとんどいなかったのではないかと思います。母が娘に過干渉になってしまったのは、ようやく我が子という無条件に自分の話を聞いてくれる人、見た目をジャッジしないで好きになってくれる人が現れたからではないか。だからそれまで人に聞いてほしかったいろんな思いを全部、娘に注ぎ込んだのでしょう。そして悲しいことに、自分が言われてきたような褒め言葉しか、娘に与えることができなかったのだと思います。

子供の頃、私は引っ越しが多かったのでいじめられることもありました。母に相談すると、答えは毎度「慶子が可愛いからよ」。さすがに4歳や7歳の子供でも「いやそんな単純な理由じゃないよね。それに、容姿が理由だったらこのしんどい状況はどうにもならないってことじゃん。私が知りたいのは、どうすればこのしんどい状況を変えて、楽しく過ごせるようになるのかってことなんだけど」と納得のいかない気持ちになりました。たぶん母は子供の頃、いじめられても誰にも相談に乗ってもらえなかったのでしょう。彼女が娘に唯一できた具体的なアドバイスは「無視しなさい!」という叱咤激励でした。でも、私は母に激励されたいのではなく、いじめられている辛さを分かち合ってほしかったのです。いじめっ子を無視するのはそれなりに効果のある対処法でしたが、私はいじめられている自分には頼れる人は誰もいないという思いを強くしていきました。二人の息子の親となった今、過去の自分を振り返ると、幼い子供がそのような気持ちで残酷な子供社会を生きていかねばならなかったのは、なかなかに孤独だったよな……と思います。

あなたは、お子さんにどんな言葉をかけていますか。人を褒めるときに、どこを褒めますか。相手の話をちゃんと聞いていますか。もしこれまで悪気なく、とにかく見た目を褒めるのが礼儀だと思っていたなら、これからはちょっと意識して、見た目以外を褒めるようにしてみるとより関係が深まるかもしれません。一緒にいると楽しいとか、もっと話を聞きたいとか、すごく共感したとか、会うと時間があっという間に過ぎてしまうとか、二人で食べるご飯はうんと美味しいとか。つまり、あなたの脳みそ、あなたの存在自体が好きですよというメッセージですね。

もちろん素直な気持ちとして、見た目を素敵だなあと思うことはありますよね。それを言ってはいけないというのも不自然です。だから表現のバリエーションを増やすといいんじゃないかと思います。うんと気心の知れた仲なら「あら今日すごくきれい」「それ可愛い!」で通じますよね。陳腐な言葉でも本音だと分かる信頼関係ができているからです。おすすめは、まだそれほど親しくない関係でつい「おきれいですね」「それ素敵ですね」と脊髄反射で誉めたくなるのをグッと堪え、あえて違う言い方にしてみるチャレンジです。脳のいいトレーニングになります。

私の場合は、身なりなどに関して言われて嬉しいのは「それ、とてもお似合いですね」とか「いい匂いがします!」です(笑)。「それ可愛いですね」とモノを褒めてくれるのも嬉しいけど、「似合っている」と言われると、それを身につけている私のありよう自体を肯定してもらえた感じがします。香水は体臭と混じっているはずだから、あなたの体温や動作が放つ香りが心地いいと言われたような気持ちになります。なんか、生存承認を得た感じ。親しみを感じてくれたんだなあと嬉しくなります。

だけどやっぱり一番嬉しいのは「話していて楽しい」「会ったらなんだか元気出た」と言ってもらえた時かな。相手が心を開いて話をしてくれたことが、何より嬉しいです。それって、私はあなたを信用しますよ、一緒にいると安心しますよっていうことですものね。人を信じる気持ちは尊いし、それを相手に素直に伝えることのできる人は、本当に素敵だなあと思います。

褒め言葉ってあんまり深く考えないで口にしてしまうことが多いけど、ちょっとした言葉がけで、呪いになったり、それまでの関係がいっそう深まったり、新しい関係が始まったりします。身近な人にも初めて出会う人にも、褒め方脳トレ、やってみてください。結構楽しいですよ。

写真/Shutterstock


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