時代の潮目を迎えた今、自分ごととして考えたい社会問題について小島慶子さんが取り上げます。

 

先日、無意識のうちに、おっさん OSで喋っちゃってた! という痛恨の出来事がありました。30代の立派な大人を捕まえて、激励のつもりで「若者がんばれ」などと言ってしまったのです。言った1秒後にハッとして、しばらくは衝撃で相手の話が何も頭に入りませんでした。

おっさんOSとは私が勝手にそう呼んでいる「人をおっさんたらしめるもの」のこと。年齢性別関係なく、この日本社会で生きていくうちに自然とインストールされてしまうものです。肩書き社会ニッポンでは、おっさんOSが基本です。

「おっさん」は、中高年男性を軽んじて呼ぶときに使われることが多いですね。独善的で視野が狭く、柔軟性と想像力に欠け、人を肩書きで判断し、男尊女卑・年功序列が染み付いている⋯⋯ というイメージでしょうか。こうした特性を持つ人物は組織で力を持つ立場にいることが多く、そのような立場にある人は日本では圧倒的に中高年男性が多いので、中高年男性に特異的な性質のように思われていますが、もちろん、全ての中高年男性がそうではないし、女性でもこの手の人はいくらでもいます。

 


「おっさん性」は人が持つ普遍的な性質の一つ


私は、「おっさん性」は人が持つ普遍的な性質の一つではないかと考えています。例えば、受容的な性質は誰の中にもあるものですが、特に子供を育てている女性に強く期待される性質なので「母性」と呼ばれます。規範やリーダシップを示す性質も普遍的なものですが、特に父親に強く期待される性質なので「父性」と呼ばれています。私の夫のように母性の強い男性もいるし、私のように母性と父性が同じくらい強い女性もいます。職場では父性的でも、恋人といる時には母性的な人もいます。おっさん性もそのように、誰の中にもある性質で、普段はほとんど表れていなくても、状況や相手によって発現することがあるのではないかと思うのです。おっさん性が強く発揮されると、いわゆるハラスメントになりかねません。

ちなみに「おばちゃん性」は、他者との垣根が低く、躊躇なく関わりを持とうとし、共感ベースで相手に親切であろうとする気持ちが強いが、時に客観性に欠け、一方的になる傾向がある性質とでも言いましょうか。これも性別に関係なく、強い人と弱い人がいますね。おばちゃん性は、通りすがりの人助けなどでは非常に良い働きをするけれど、親戚やご近所さんにフルに発揮されるとかなりめんどくさいでしょう。良かれと思っても、過干渉になりかねません。


「自分はまだ広い世界のほんのちょっとしか知らない」という気持ちが大事


加齢に伴って社会的に発言力が増したり、周囲に気を使う必要がなくなったりすると、若い頃よりも客観性や自己批判力が弱くなる傾向は確かにあります。でも20代、いや10代の頃だって、私はおっさん性を野放しにしていたことがありました。
セーラー服を着ていた頃はちょうどバブル期で女子高生ブームだったので、本気で「自分たちが一番強い、何も怖いものはない」と思っており、おじさんやおばさんはうざい、見苦しい、邪魔だと見下していました。当時、若者は消費者としてちやほやされていたので、若さは何よりも価値があるブランドだと信じていたのです。それこそ、肩書きで人をランクづけするおっさんOSそのものの態度だったなと思います。電車に乗り込むときに人を平気で押しのけるおじさん・おばさんを軽蔑していたのに、先生の目を盗んで入ったファストフード店では注意されてもみんなで長々と居座ったりして、とても厚かましかった。10代だろうと50代だろうと、内輪の価値観だけで生きていると傲慢になりやすいのですね。

最近、上手に歳をとるってどういうことかなあと良く考えます。いろんな欲望を削ぎ落として悟りの境地に達するのはかっこいいけど、誰もができることじゃありません。だから凡人はせめて「自分はまだ広い世界のほんのちょっとしか知らない」という気持ちを持ち続けることが大事なんじゃないかと思います。「私はいつまでたっても世間知らずだな」「人の言うことは素直に聞こう」という気持ちでいれば、おっさんOSがうっかり発動してしまうことも防げるでしょう。冒頭書いたように、先日やらかした私はまさに「自分の方が経験豊富で、ものをわかっている」という傲りゆえに、年下の人に先輩風を吹かしてしまったのです。ご本人にはあとでLINEでお詫びしましたが、周りで聞いていた人もうんざりな気持ちになったろうなと思うと、思い出すたびに唸りながらミミズみたいに身をよじってしまいます。
自分は大丈夫と思っていても、人には色々な隠れOSがインストールされているもの。せめて、うっかりやっちまったときにハッと気づくセンサーだけは鈍らせずにいたいですね⋯⋯ 。

 

写真/Shutterstock


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