時代の潮目を迎えた今、自分ごととして考えたい社会問題について小島慶子さんが取り上げます。


ある年上の知人は毎年夏になると、同世代の女性たちとビキニを着てホテルのプールやビーチに泳ぎに行くそうです。「日本では50過ぎた女性が水着になるのは恥ずかしいとか、ましてビキニを着るなんてとんでもないとか言う人がいるでしょ。それを変えたくて、わざと中年女性ばかりで好きな水着を着てプールに行くのよ。おばさんやおばあさんが楽しそうにビキニで泳いでいる姿をもっと見慣れてほしいから」

 

オーストラリアに引っ越したら、ビーチにはまさにそんな光景が広がっていました。いろんな年齢や体型の人が思い思いの水着を着て海と親しんでいます。競泳水着やビキニのおばあちゃんたちを見て、とても安心しました。

「女性の体は性的な鑑賞物ではない」「何を着るかは本人の自由」そう言うと必ず「でも、性的な魅力をアピールしているではないか」「見られたくないなら目立つ服装をするな」という反論が飛んできます。さて、あなたはどうですか。海やプールで何を着るか、出かけるときにどんなメイクをするか。女性が常に性的な存在として見られ、外見について勝手なことを言われるのは、仕方がないのでしょうか。

 

東京オリンピックでは、ドイツの体操女子チームが、露出の多いレオタードではなく体全体を覆うユニタードで出場して注目されました。体操競技を性的な対象として見ることに抵抗する意思表示です。7月に行われた女子ビーチハンドボール欧州選手権では、規定のビキニパンツの着用を拒否してショートパンツを着用したノルウェーの選手たちに罰金が課され、それを歌手のピンクが肩代わりすると宣言してニュースになりました。

スポーツを見る観衆の視線だけでなく、ルール自体が「女性の身体に向けられる性的な眼差し」を含んでいることに、女性アスリートたちが抗議し始めています。背景には、スポーツの世界が圧倒的に男性中心の価値観で作られてきたことがあります。レオタードでもユニタードでも、ビキニでもショートパンツでも、心地いいと思う方を選べるようになったらいいですよね。

スポーツ報道では、以前から男性アスリートと女性アスリートの報じ方が異なることが問題になっていました。女性はアスリートとしての能力よりも容姿や私生活が注目され、見出しにも「美人すぎる」「ママさん」などの使い古された言葉が並びます。残念ながら今回の五輪報道でもそうした傾向は変わりませんでしたが、それが活発に批判されるようになったのは大きな変化です。

五輪の金メダリストの女性と面会した河村たかし名古屋市長が、選手の容姿を揶揄からかうような発言をしたことも記者会見で批判されました。市長は場を和ませるつもりで言ったようですが、いわゆる“容姿いじり”で笑いをとろうという発想自体が人を尊ぶ姿勢に欠けることには全く無自覚のようです。
以前は、テレビのコメンテーターなどが女性アスリートの容姿や女性らしさについて敬意を欠いた発言をしても、スルーされていました。今回のオリンピックではそうした発言への疑問や批判の声も盛んに報道され、これまでのモヤモヤの正体がわかった人もいるでしょう。

一方で、「可愛いのに強い」「美しすぎるアスリート」は、容姿を褒めているのだからいいではないか、褒められて嫌な気はしないだろうし、もっと寛容になろうよ、とため息をついている人もいるかもしれませんね。私も、かつては人の容姿についてあれこれいうのは「普通の話題」だと思っていました。日常会話でもメディアの中でもあまりに当たり前に行われていたので、おかしいと気づけなかったのです。

でも、褒めるなら容姿ではなく、アスリートとしての能力や戦いぶりを褒めればいいだけのこと。日常会話でも、顔立ちや体型以外の話題はいくらでもあります。もちろん、おしゃれや美容を否定することではありません。その人が自分にとって心地いい外見であろうとすることと、他人が口出しをすることは違いますよね。人が他者の眼差しによって鑑賞物のように扱われるのはおかしい、その習慣をもうやめよう!ということです。

中でも女性は、幼い頃から執拗にそうした「品定め」の眼差しにさらされ、褒めるも貶すも外見について勝手なことを言われることがとても多い。スポーツの世界だけでなく、職場や家庭でも、女性の身体が不躾な眼差しから自由でいられるように。他人の体の品定めが大好きな人たちには、人間の見るべき美点は他にたくさんあると知ってほしいです。


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