エンタメ業界で活躍するライター6名が、2021年に公開・放送・配信(海外作品は2021年日本公開)された作品から「個人的ベスト5」を選出。まだビミョーに遠出はしにくい今年の年末年始、家で過ごす時間は、気になっていたあの作品をイッキ見!

選者:横川 良明さん(ライター)いよいよ今年も残りわずか。2021年もたくさんのエンターテインメントが僕の毎日を潤してくれました。そんな素敵な作品の中から、特に心に残った5本をチョイス。見逃したという方も、一緒に熱狂した方も、この年末年始のお供にいかがでしょうか。

【5位】連ドラ『今ここにある危機とぼくの好感度について』
(Amazon Prime Video、NHKオンデマンドにて配信中)

『今ここにある危機とぼくの好感度について』 写真:Amazon Prime Videoより (C)NHK

主人公は、好感度だけが取り柄のアナウンサー・神崎真(松坂桃李)。ルックスの良さもあり受けは良かったものの、やがて若手にその人気はとられ、キャリアは頭打ち。そんな中、恩師の三芳総長(松重豊)の誘いを受け、渡りに船とばかりに大学の広報マンに転身。しかし、そこは不正と隠蔽、理事たちのパワーゲームが横行する伏魔殿だった。さらに追い討ちをかけるように、次々と学内でトラブルが発生し……というのがおおまかなストーリー。

それっぽいことを言っているように見えて、中身はスカスカという神崎の好感度命なキャラクターは、同じことをしても好感度によって叩かれる人もいれば許される人もいるという現代の風潮を見事に凝縮していて、非常に今日的。問題の本質から目をそらし、丸くおさめるためだけに立ち回る姿は滑稽だけど、そんな神崎を笑いながら、じゃあ自分がどれほど神崎と違うのかと問われると答えに窮してしまうような皮肉がこめられているところに、脚本家・渡辺あやのセンスを感じました。

担当教授の論文不正を告発した木嶋みのり(鈴木杏)が、条件のいい就職先をエサに何とか篭絡しようとしてくる神崎に向けて放った「権力を持ってる人たちって見下してる人間に対して想像力ないよね。見下すのは勝手だけど、見くびるのはやめた方がいいよ」という台詞の切れ味は今年最大級。権力者たちの傲岸不遜な振る舞いにつくづく嫌気がさしていた2021年、「弱き者」「声なき者」とされている人たちからの渾身のカウンターパンチに、多くの人の溜飲が下がったはず。

良き喜劇とは、良き風刺であることを示した快作でした。

 


【4位】連ドラ『最愛』
(Paraviにて配信中)

『最愛』 写真:番組公式サイトより 

嵐の夜に起きた、ひとりの男性の失踪事件。15年後、その男の白骨が山中から発見される。さらに、男性の父親が何者かによって殺害された。いったい誰がこの親子を手にかけたのか。謎が謎呼ぶミステリーと、大切な人のためにすべてを投げ打つ純愛が絡み合い、観る人を虜にしたのが、この『最愛』でした。

『最愛』のすごいところは、第1話から最終話までまったく中だるみさせることなく、常にトップギアで攻め続けたこと。序盤は、かつて想い合っていた真田梨央(吉高由里子)と宮崎大輝(松下洸平)の2人が、容疑者と刑事という立場で再会したことから巻き起こる切ない恋模様と、行方知れずとなった弟・優(高橋文哉)の正体で釘付けに。しかし、早くも第5話で15年前の事件の真実が判明。まだ中盤にもかかわらず、最終回のような盛り上がりを見せました。さらにそこからフリージャーナリスト・橘しおり(田中みな実)の過去と死、後藤信介(及川光博)の寄付金詐欺と、次々と重要なカードを切っていき、視聴者を飽きさせません。

連ドラというのは最初は面白かったのに途中から尻すぼみになったり、後半から一気に巻き返したものの序盤で離脱した視聴者を最後まで取り戻せなかったりするのが、よくある世界。全話きっちり面白いというのは、なかなかできることではありません。それをこの『最愛』はやってのけた。

さらに、ちょっと不器用で無骨なところはあるけど、愛する梨央のために懸命な“大ちゃん”と、包容力たっぷりの愛で、時に無茶をする梨央を一途に受け止める“加瀬さん”(井浦新)という2人の男性キャラクターが人気沸騰。たくましく美しいヒロインを演じた吉高由里子含め、最強のトライアングルで、視聴者を「君に夢中」にさせました。

プロデューサーの新井順子とメイン監督の塚原あゆ子は、これまで『夜行観覧車』『Nのために』『リバース』といったサスペンスから、『中学聖日記』『着飾る恋には理由があって』のようなラブストーリー、『アンナチュラル』『MIU404』のような社会派ミステリーまで名作を生み出し続けてきた無敵のタッグ。この2人がつくるドラマにハズレはないというブランドを、『最愛』でより確かなものとしました。