『逃げ恥』に見る「愛でる」文化の高まり


なぜこんなに男性を「可愛い」と慕うようになったのか。ひとつ目の理由は、日本の男性像の変化です。いわゆるホモソーシャルがあまり好まれなくなり、家父長制・体育会系の男性像を苦手とする声がこの10年で一気に大きくなってきました。

「可愛い」はこうした「有害な男らしさ」の対極にあるもの。自分たちを傷つけたり蔑んだりすることがない、安心して愛を叫ぶことのできる対象として、「可愛い」男性が今支持されています。

そして、もうひとつの理由が「愛でる」という文化の高まりです。この「愛でる」という言葉も感覚的にはこの10年くらいの間で多用されるようになった印象があります。ちょっと昔なら「萌える」がありましたが、今は「萌え」より「愛で」。推しに対して、「愛でたい」という感覚を味わった人も多いのではないでしょうか。

この「愛でる」は俗語的に広まっているものなので、定義は人それぞれなのですが、おおむね「推しが生きているのを眺めながらキュンキュンしたりニコニコしたい」というニュアンスが含まれているかと思います。なので、推しからの矢印が自分に向かなくてオッケー。植物に水をやるように、動物を撫でるように、推しを一方的に慈しむ。それが幸せであり、喜びというのが「愛でる」です。

そんな「愛でる」気持ちを最大限に引き出すのが、男性の「可愛い」なんだと思います。「カッコいい」だと「愛でる」よりも「崇める」気持ちが前に出る。この「愛でる」文化の高まりが、男性の「可愛い」需要を上げているのではないかと考えています。

以前、『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)でこんな台詞がありました。

「『可愛い』は最強なんです。カッコいいの場合、カッコ悪いところを見ると幻滅するかもしれない。でも『可愛い』の場合は何をしても可愛い。『可愛い』の前では服従。全面降伏なんです!」

”契約結婚”という今までにない結婚の形を描き、さらにキャラクターの魅力で「逃げるは恥だが役に立つ」は社会現象に。写真は、同作で第41回エランドール賞特別賞を受賞した際の星野源(2017年)。写真:アフロ

これこそが「愛でる」楽しさをわかりやすく言葉にしたもの。潜在的に多くの人が「可愛い」とキャッキャしたかったのでしょう。こうした「可愛い」最強論に共感の声が集まることで、ドラマの中でも男性の「可愛さ」が強く打ち出されるようになりました。

 

なぜ私たちはこんなにも「愛でたい」のか


ではなぜ私たちはこんなにも愛でたいのか。それはやはり殺伐とした社会の裏返しだと思います。暗く悲しいニュースが続き、日常でもストレスが絶えない。そんな中でスピーディーに幸福感を上げられるのが、「愛でる」。推しを愛でているだけで、心が休まる。推しを愛でている時間だけは、頭の痛い現実から切り離される。「愛でる」は幸せの高速充電器なのです。

こうした時代の空気感を反映したように、男性側の意識もかなり変わってきたと感じています。昔ほど「可愛い」と言われることを嫌がらない人も増えましたし、なんなら意図的に「可愛い」を演出するあざとさも良いものとして受け入れられるようになりました。それは既存の「男らしさ」からの解放でもあり、一人ひとりが自分に合った魅力を自分らしく出していける社会の肯定にもつながっています。

もちろん「カッコいい」も最高。これだけ「可愛い」が市民権を得た今こそ、誰も手が届かない「カッコよさ」で圧倒してほしいという気持ちもあるのが欲張りな本音。そんなスーパースターがもしかしたらもうすぐ現れるかもしれません。

愛される男性像は、その時代の社会の映し鏡。2022年はどんな男性像が支持されるのか。注目して見守っていきたいと思います。


構成/山崎 恵


 

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