『愛の不時着』の大ヒットに端を発した今回の韓ドラブーム。「一過性のブームではなく、本物だと確信し、『韓国ドラマ=イケメン&恋愛』の偏見から解き放つことが私の使命」と語るのは、20年以上韓国カルチャーを追っかけてきた映画ライター/コラムニストの渥美志保さん。この度、新著『大人もハマる!韓国ドラマ 推しの50本』を上梓しました。

社会派サスペンスから、アクション、歴史スペクタクルなどどれを観てもハズレなしの名作揃いの韓国ドラマから、渥美志保さん激推しのドラマ4作品をご紹介! もう観た方も、観ようか迷っていた方も、果てしなく深い“沼”の世界へどうぞ……!


評する自信を失うほど魅力に溢れたドラマ


最初に書いておきたいことは言い訳です。このドラマがあまりに好きすぎて、その魅力を要領よく伝えられる気がしません。でもとりあえずは書き始めてみます。

写真:Everett Collection/アフロ

ドラマが描くのは、40歳のエリート医師たち5人の友情と、彼らが勤めるソウルの総合病院「ユルジェ病院」の日常です。韓国ドラマでは、日常を描くうちに出生の秘密とか復讐とか愛憎とかが絡んでくることも多いのですが、このドラマにはその手のネタはまったくありません。日々患者を治療しながら恋や友情や家族関係に喜怒哀楽する、本当の日常のみ。

5人はソウル医大の同期生で、各分野で名を知られる医師たちです。彼らが出会ったのは、医大で行われた合宿の飲み会――上級生に言われて下級生が飲み、芸をする的な――からこっそり抜け出して隠れた納屋の中。40歳の今となっては、一見「普通のきちんとした大人」になっていますが、みな基本的に「組織の論理」とか「ヒエラルキー」とかにあんまりかかわりたくないというタイプです。

 


こんな医者、こんな上司がいてくれたら


ドラマの最大の魅力は彼ら5人のキャラクターです。天然かつ天才の肝臓移植医でシングルファザーのイクジュン(チョ・ジョンソク、『ああ、私の幽霊さま』)、イクジュンの妹と交際中のツンデレ胸部外科医ジュナン(チョン・ギョンホ、『刑務所のルールブック』)、実力も人柄も完璧だけど音痴なのに歌いたがるのが玉に瑕の脳外科医ソンファ(チョン・ミド、『マザー 無償の愛』)、資産家の息子で離婚した母親と二人暮らしのバツイチ産科医ソッキョン(キム・デミョン、『ミセン―未生』)、ユルジェ病院の跡取りで「仏様」とあだ名される小児科医ジョンウォン(ユ・ヨンソク、『応答せよ1994』)。

彼らは医師としての実力もさることながら、それ以上に患者の不安や痛みに心を砕く「こんなお医者さんがいてくれたら」と思わせる理想の医師であり、穏やかだけれど甘くはなく、ツボを心得ていて決して感情的にならない「こんな上司だったら」と思わせる理想の上司でもあります。そんな彼らが存分にお互いの素を見せられるのが、この5人の仲間なのです。
 

ドラマの魅力的な空気を作る食事とバンドのシーン


韓国らしいなあと思うのは、とにかく彼らは一緒にメシを食うこと。韓国では「パンモゴッソ?(ご飯食べた?)」はもはや挨拶と言えますが、ドラマには本当にものを食べるシーンが多いのです。カフェでのコーヒー、院内食堂の定食、教授室で集まって食べるキンパプ(海苔巻き)、おやつや夜食のカップ麺、そして1話に1回は「何時に終わる?」と示しあわせて、5人はかならず夕食を食べに行きます。

助けた命を喜び、助けられなかった命を悲しむ「お医者さん」は、一緒にご飯を食べると「学生時代の友達」に戻ります。いつものジョークを飛ばし、焼いてるカルビを子どもみたいに奪いあい、いざとなると一丸となる彼らとその関係は、このドラマの魅力的な空気感を作っています。

5人はバンドを組んでいるのですが、その練習場面も同様です。彼らが演奏し歌うノスタルジックなメロディは、彼らの今の心境を雄弁に物語ると同時に、彼らが今も青春時代と変わらない思いで生きていることを思わせます(メインボーカルのイクジュンを演じるチョ・ジョンソクの歌声は本当に心にしみます。彼はそもそもミュージカルの大スターです!)。

 
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