既存の医療ドラマとの違い


ひとつひとつの命のドラマは、時に涙が出て涙が出てたまらないものもあります。だがそれでいて、既存の医療ドラマにありがちなもの――医師どうしの出世競争や、医療と経営の対立、大事件が発生する展開などはこのドラマにはありません。ついでにいえば、男性医師を狙う女性看護師とか、女性看護師を弄ぼうとする男性医師といったステレオタイプも皆無。そして男女の同僚の仲を疑う人物には、いちいち「ダサい」「昔の人」「オッサン」という言葉を投げます。

写真:Everett Collection/アフロ

つまるところ「ユルジェ病院」はある種のユートピア的世界であり、それを技術的に、精神的に、そして実は金銭的にさえ、支えているのが5人なのです。もちろん小さないざこざや、どうしようもない悲しみ、格差もあります。鈍感な人、無神経な人、偉そうな人もいますが、きちんと話せばわかってくれる人がほとんど。時には「ダメだこりゃ」という人もいますが、周囲はそれによって病むにはのんびりと鷹揚で、欠点と同じくらい美点に目が行く程度の心の余裕も持ち合わせています。誰もが当たり前のように他者に優しく、「善き行いがしたい」というまっすぐな気持ちを持ち、同時に誰ひとり「自分こそがヒーローだ」と思っていません。結果として、誰もがヒーローである世界ができあがっています。現実にはそんなものはありえないからこそ、その世界が本当に愛おしいのです。

 


沼化を加速させるキャストとスタッフのファミリー感


主演の5人は、このドラマで新発見されたミュージカル界のチョン・ミドをはじめ、誰もが素晴らしい。シン・ウォンホ監督とイ・ウジョン脚本家の他作品からは、『刑務所のルールブック』のチョン・ギョンホ、『応答せよ1994』のユ・ヨンソクがキャストされており、ゆるーいファミリー感もいいんです。

同2作品のキャストは「これでもか!」とカメオ出演しているので、探しながら見るのも韓国ドラマファンには楽しいでしょう。そして患者役で特別出演する俳優たちには、バスタオルが必要なほど泣かされます。2シーズンで区切りを迎えたようですが、アメリカのドラマのように何シーズンも重ねていってほしいくらいです。ここ10年の韓国ドラマで最高の作品を、決して見逃さないで。
 

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近年、質量ともに世界を席巻している韓国ドラマ。恋愛やイケメンだけではない、大人が見る価値のある厳選50作をドラマ通が熱く紹介。

目次 
はじめに 
序章 韓国ドラマはなぜブームになったのか? 
1章 ドラマティックな韓ドラの真髄! 涙と笑いの激アツ時代劇ドラマ 
2章 古い常識をぶっとばす、新時代のヒーローたちの痛快エンタメドラマ 
3章 女性の強さとともに弱さも肯定する、いまの時代のフェミニズム系ドラマ 
4章 バスタオルを用意したほうがいい、100万人の号泣ドラマ 
5章 人間の複雑な本質をえぐる、極上のサスペンスドラマ 
6章 悪人のいない世界を描き続ける、韓ドラNO.1のスターPD シン・ウォンホ作品 
7章 韓国ドラマの新しい世界が開ける、「推しの脚本家」探し 
8章 顔がいいだけじゃない! 推しのイケメン出演作 
9章 いま観ても面白い、いま観るから面白い伝説の大ヒットドラマ 
10章 100万人が泣けて笑える、お茶の間にぴったりのKBS週末ドラマ


取材・文/渥美志保
構成/川端里恵(編集部)


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