フランス在住の作家・パリュスあや子さんによるミモレ書き下ろし連載小説の第3弾。日本からフランスの大学院へ留学。難解なフランス語とフランス人とのコミュニケーションに馴染もうと格闘する愛莉だったが……。

 
あらすじ
パリの大学院で「映画理論」を学ぶ愛莉あいり。流れで一夜を共にしたフランス人のギヨームからは、はっきりと愛を告げられたわけではなく、関係を確認できずにいる。そんな愛莉に「金曜の夜、映画を見に行こう」とギヨームから連絡がきてーー。
 


「街角にシャンソン」(2)


2.
「パリの大学院を受験しよう!」

そう閃くまで、パリの大学について何も知らなかった。というか、フランス映画とフランス語が好きなだけで、フランスに行ったこともなければ特に憧れていたわけでもない。

漠然と「パリの大学」=「ソルボンヌ」と思っていたけれど、パリにある公立大学は「パリ大学」といい、十三の校舎で構成されている。そのうち三つに「ソルボンヌ」の名前が付いていて、パリ第一大学が「パンテオン・ソルボンヌ」、第四が「パリ・ソルボンヌ」、そして私が通っている第三が「ソルボンヌ・ヌーベル」。

ちなみに「ソルボンヌ」という名称は、1257年に聖職者ロベール・ド・ソルボンが、貧しい神学生のために設立したパリ大学の学寮名から来ているらしい。

三つの「ソルボンヌ」はいずれもパリ中心部から少し南、左岸の五区にある。この界隈は学生街として有名で、文化地区「カルチエ・ラタン」という名称でもおなじみだ。大小様々な書店や映画館が軒を連ね、観光地としても人気が高い。