「OK Google、私を励まして」「毎日色々なことを考えて生きている。それってとてもすごいことだと思います」。我が家のスマートスピーカー「Google Nest Mini」との、ある日の会話です。「励まして」とお願いする筆者もどうかと思いますが、Googleさんからの深みのある回答には唸ることもしばしば。

尋ねた情報について調べてくれる、家電を動かしてくれる、さらには会話のキャッチボールまでしてくれる――。私たちの暮らしの中にいつの間にか根づいた人工知能の技術が、この先どのような発展を遂げるのか、気になる方も多いのではないでしょうか。

そこで今回ご紹介したいのが、紺野大地さん、池谷裕二さん、ふたりの脳研究者による著書『脳と人工知能をつないだら、人間の能力はどこまで拡張できるのか 脳AI融合の最前線』です。人工知能がもたらす想像を超えた現実が、すぐ目の前にまでやってきていることを教えてくれる本書から、近未来を大きく変えそうなある技術についてご紹介します。

「12万字の本が数分で完成する未来は遠くない」脅威的な進化を遂げる「人工知能」の現在地_img0
 


ここ数年で最も衝撃的な人工知能「GPT-3」


近年爆発的な進歩が続いている自然言語処理の分野において、2020年の最大の衝撃はOpenAI社が開発したGPT-3の登場でした。

 

GPTとはGenerative Pretrained Transformerの略で、「学習済みの汎用的な変換器」と訳すことができるでしょう。もう少し分かりやすいように表現すると、GPT-3は「自然言語で出した指示に柔軟に答えてくれる人工知能」と言えます。いったいどういうことでしょうか? そのすごさを知るために、まずはGPT-3の前バージョンであるGPT-2について紹介します。

GPT-2は2019年に発表された自然言語処理モデルであり、自然言語で指示を出すと自然言語で返してくれるという人工知能です。もっと分かりやすく言うと、「文章を創り出す人工知能」と考えるのが良いでしょう。GPT-2は、インターネット上に存在する膨大な文章をひたすらインプットすることで、「こういう指示を受けた場合にはこういう返答をする」という関係性を自ら学んでいきます。


開発者も危険視するほどの文章生成能力


このようにして学習したGPT-2に「トランプ前大統領が言いそうなツイートを作って」と指示すると、「私は強いリーダーシップと決意を持って働いている。アメリカは常に勝者だ!」という文章を返してくれます。確かにトランプ前大統領が言いそうな文章ではないでしょうか?

GPT-2は文章を生成する性能が高すぎたため、開発者自身が「あまりに危険だ」と考え論文の公開が延期されるほどでした。たしかに、GPT-2が生成した文章がトランプ前大統領自身の発言と区別がつかないレベルになってしまえば、フェイクニュースに用いられかねません。このように、GPT-2は文章を創り出す性能が極めて高いことで大きな話題となりました。