「君の一番好きな映画は?」

大学院で映画の勉強をしていると話すと、必ず聞かれる質問だ。

「一本だけ選ぶのは難しいけど、フランス映画なら『髪結いの亭主』かな」

「あぁ! 僕も大好き! 究極の愛だよね。独特のダンスも忘れがたい」

ギヨームには第一印象から惹かれるものを感じていた。しっくりくる、というんだろうか。そのうえ映画の趣味も合い、その場で映画デートの約束が決まった。パリで初めて、異性とランデヴー! 筋書きがあったかのようにトントン拍子に話が進む。

したあとは、煙草、吸いたいんじゃない?_img0
 

デートもまた同様で、お互い好意を持っているのがすぐにわかった。ドキドキする一方、恋愛映画を観ているかのような冷めた視点で「次はこうなる」と展開が予想できてしまう。そしてまさに、その通りの結末。

事が終わって、余韻に浸るようにギヨームと抱き合いながら、全てがあまりにスムーズに進んでしまったことが怖かった。

 

彼の熱い息をぼんやりと首筋に感じているとき、ふと思い至った。

そういえば、愛の告白らしきこと、お互い一言も発してない。

「ねぇギヨーム――」

「ん?」

私のこと好き?――なんて、終わってから聞くなんて興ざめもいいところ。野暮な質問は止めよう。十代でもあるまいし……