「次はいつ会えるかな?」
――ヤバ! 重いと思われちゃう!?
咄嗟に発した質問もまた幼稚でヒヤリとしたけれど、ギヨームは巻き付けていた太い腕をゆるめ、満面の笑みで私の顔を覗き込んだ。
「いつでも! って言いたいけど、ヴァカンス明けはいつも仕事が忙しいんだ。でも近いうちに、きっと。連絡するよ」
チュッと音を立てておでこにキスされたら、頷くしかない。
――まぁそうだよな……私だって忙しいし……
そのときはクールなふりをして、納得しようとした。
実は男性経験はこれが二人目だった。身体から入ってしまったのは初めてで、それがバレないよう、余裕を見せたかったというのもある。
「そうだ、煙草、吸いたいんじゃない?」
大学時代の全てだったといっても過言ではない元カレは、セックスの後必ず煙草を吸っていたことを思い出し、気を利かせるつもりで言ってみた。
ギヨームも食事の後、自分で葉っぱを巻いて吸っていたほどの喫煙者なので、きっと……と思ったのに、キョトンとされてしまった。
「愛莉、吸いたいの?」
「私は吸わないけど」
「僕はもう少しこうしてたいな。君がよければ」
再びぎゅっと抱きしめられ、なぜか「負けた」と思った。
そしてつい、シネフィルだった元カレのことを考えてしまった。私を映画の道に引き込んだ張本人。プライドが高い、減らず口ばかりの男……
あんな気難しい奴、私以外の女性とはそう簡単に付き合えないだろう。今では悔し紛れでなく冷静にそう達観しているけれど、当時は心底崇拝していて視野が狭くなっていた。
私だけを見てほしくて、私もまた尽くしすぎた――
「いいにおい」
かすれたような低い声でささやかれ、ビックリする。そんなこと言われたの、人生初。
そういえばギヨームは喫煙者なのに、元カレみたいに煙草くさくない。体臭と、たぶん香水がまじりあって、雨が降った後の湖みたいな匂い。
元カレの思い出に浸り、比べてしまったことを心の内で謝る。指先一本一本に神経を巡らせてゆっくりとギヨームの背中をなでながら、厚みも熱さも全然違うなと、やっぱり比べてしまっていた。
NEXT:1月29日(土)更新(毎週月・木・土更新です)
スムーズすぎた甘美な夜から時が経つほど不安になる愛莉。金曜日、映画デートの約束をするが……。
<新刊紹介>
『燃える息』
パリュスあや子 ¥1705(税込)
彼は私を、彼女は僕を、止められないーー
傾き続ける世界で、必死に立っている。
なにかに依存するのは、生きている証だ。
――中江有里(女優・作家)
依存しているのか、依存させられているのか。
彼、彼女らは、明日の私たちかもしれない。
――三宅香帆(書評家)
現代人の約七割が、依存症!?
盗り続けてしまう人、刺激臭が癖になる人、運動せずにはいられない人、鏡をよく見る人、緊張すると掻いてしまう人、スマホを手放せない人ーー抜けられない、やめられない。
人間の衝動を描いた新感覚の六篇。小説現代長編新人賞受賞後第一作!
撮影・文/パリュスあや子
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