【訪問医射殺事件】背景にある日本の在宅医療の問題点。人手不足に経済格差も_img0
 

埼玉県ふじみ野市で、在宅医療を行っていた医師を患者の家族が射殺するという言葉にならない事件が発生しました。日本では在宅医療を望む声が多いことや、医療費を抑制したいという政府の意向もあり、在宅医療を重視する流れになっています。ただ在宅医療は医師や看護師の負担が大きく、現実には多くの課題があります。

 

かつての日本では多くの人が自宅で医師の診察を受けていました。戦後日本の交通事情は悪く、MRIやCTなど高度な医療機器もありませんでしたから、医師が患者の家に行って診療するのはごく当たり前のことだったのです。昔の小説などを読むと、医師がカバンを持って患者の家に往診するシーンがよく出てきます。

経済成長に伴って交通事情が改善したことや医療の高度化が進んだことから、日本の医療は在宅中心から病院中心の形態にシフトし、現在に至っています。では、なぜ最近になって再び在宅医療重視の流れになっているのでしょうか。この動きにはプラスの面とマイナスの面があります。

プラスの面は、日本人の生活水準が向上したことで、尊厳ある形で死を迎えたいと考える人が増えたことです。各種調査では過半数の人が自宅で亡くなりたいと考えています。十分な延命効果が見込めない段階になれば、住み慣れた家で最期を迎えたいと考えるのは自然なことだと思います。

マイナスの面は、政府の財政事情です。皆さんよくご存知のように、日本は国民皆保険制度を採用しており、誰でも、安価な費用で病院にかかることができます。しかし医療には莫大なコストがかかりますから、医療費が財政を圧迫しており、制度を続けるのが難しくなっています。政府は在宅医療を進めることで医療費を抑制したいと考えているのです。

国民と政府の意向が合致していることから、在宅医療への流れが出来上がっているという図式ですが、事はそう単純ではありません。

確かに入院患者が自宅に戻れば、純粋な医療費という点ではコスト削減になりますが、自宅で十分なケアを受けるためには、患者もしくはその家族に相応の経済力が必要となります。家族がしっかりケアできる世帯や、経済的に余裕がある世帯であれば、在宅医療の方が満足度は高いでしょう。しかし、そうではない状態で在宅医療に移行してしまうと、逆に医療の質が下がったり、患者や家族の負担が過大になりかねません。

 
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