フランス在住の作家・パリュスあや子さんによるミモレ書き下ろし連載小説の第3弾。日本からフランスの大学院へ留学した愛莉。またしてもギヨームと一夜を共にしてしまったが、まだ気持ちを確認できずにいます。
パリの大学院で「映画理論」を学ぶ
「街角にシャンソン」(7)
7.
「おもしろくないねぇ」
担当教授に切って捨てられ、血の気が引いていく。
恐れていた修士論文面談、何を言われても動じないぞと気合を入れて臨んだものの、実際にダメ出しを受けまくった後に平静でいることは不可能だった。
「曖昧で大摑み。もっと具体的にテーマを絞るとか、オリジナルな視点が欲しい」
――今更、そこからか……
ずたぼろのサンドバッグになった心地で、ほとんど足を引きずりながら大学院を出る。「結論ありきだ」という指摘は、自分自身でも薄々感じていただけに、とりわけ深く刺さっていた。
これは論文に限ったことじゃない。なんでも神経質に思い詰め、結論を急いで袋小路にハマっている。
ギヨームとの関係も……
ブリコラージュの店で別れ、逃げるように帰ってしまった土曜日。大荷物を抱えたギヨームの「またね?」と不確かそうな寂しい声音が耳から離れなかった。
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